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「それで、裕翔おれになんか用?呼びに来たんでしょ?」
裕翔がマグカップを流しに置いたタイミングで、そういえばと話を振った。
わざわざ給湯室まで探しにきたってことは、なにかしらの用事があったはずだ。
取引先からの電話、課長のお小言、この前のコンペの結果、それからあとは……。
「あ、うん、そうだ!急なんだけど、今日チームのみんなで飲みに行かない?って話になってね」
なんだ。
思い浮かべためんどくさい要件はぜんぶハズレだった。
「人数確定したらお店予約しようと思って、先輩はどうかなって……あ」
「あ?」
「や、ごめん。そういえば先輩、けっこう前から今日は定時で上がるって言ってたなって思い出して」
──デートなんでしょ?
別に他に誰もいやしないのに、わざわざ耳打ちしてくる。
くすぐったさに身をよじり、相変わらずゼロ距離の裕翔を至近距離で見上げた。
「行く」
「え?」
「飲み会、おれも行く」
「え、でも……」
「もう、察しろよ」
とんとん、とポケットに入れたスマホを指で叩いてみせれば、裕翔は一瞬黙って複雑な表情を浮かべる。
「またドタキャン?……ちょっと最近多くない?」
「まあね。仕事って言うならどうしようもないし、仕事ほっぽりだしてニートになられても困るし?」
わざとらしく眉毛を上げて笑ってやった。
そう。
仕事だから仕方がない。
裕翔に言った言葉は、山田にも何度も言った言葉で、なにより自分自身にいつも言い聞かせる言葉だ。
山田も裕翔と同い年で、今年で社会人三年目。
そろそろ責任のある仕事だって任されるようになって、毎日忙しくて、でもその分きっと充実してる。
おれも通ってきた道だから分かるんだ。
「……そんなわけで、いのちゃん先輩は今夜超ヒマでっす!飲み会参加しまっす!」
「はいっ、了解です!じゃあ、お店予約してくるね」
テンション上げて返事したおれに、裕翔も空気を読んでビシッと敬礼なんかしちゃって。
コーヒーありがと、ってけっきょく律儀にお礼言って部署へと戻っていった。
ちらっと流しを見ると、いつのまに洗ったのか、マグカップはきっちり戸棚へと仕舞われてる。
よく気が利くやつだよなあ、ほんと。
ふいにポケットのなかのスマホが震えた。
いい加減見飽きた謝罪文とご機嫌取りのメッセージだと思うと開く気になれなくて、震えっぱなしのスマホをそのままに、おれも裕翔を追いかけた。
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komikku(プロフ) - とても面白かったです〜!続きが気になります☆お待ちしてます☆ (2020年6月5日 8時) (レス) id: 4ae5ae8e00 (このIDを非表示/違反報告)
あまなつ(プロフ) - みるみるみるきーさん» コメントありがとうございます!三者三様、100%の善人は出てこない重めのお話になるかと思いますが、ぜひ今後もお時間のあるときにお付き合いくださると嬉しいです。 (2020年1月5日 23時) (レス) id: 84a58c20c8 (このIDを非表示/違反報告)
みるみるみるきー(プロフ) - 新作、おめでとうございます。今後の3人の展開がとても気になります。更新楽しみにしています。 (2020年1月5日 12時) (レス) id: a47283bf22 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あまなつ | 作成日時:2020年1月1日 12時