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おれが社会人になった年、山田は当然まだ大学生で、仕事の忙しさにかまけて連絡が途切れがちになるおれに、山田はいつもマメにメッセージを送ってくれた。
おれの負担にならないように、どのメッセージも他愛ないものばかり。
返事をすれば喜ぶけれど、返事をしなくても気にしてませんよって素振りがすごく上手だった。
おれにとっては都合のよすぎるぬるま湯みたいな日々のなか、ある夜、山田は突然電話をかけてきた。
『ごめん、なんか、用は別にないんだけど。……声、聞きたくて』
そう言った声が震えてて、おれはなんにも言えなくて。
熱い頬に、おれはあの夜きっと、もう一度山田に恋したんだ。
突き動かされるように部屋を振り返れば、ソファーにもたれた山田があくびしながら目をこすってる。
おれに気づいて、ひらりとゆるく手を振ってくるから、それに手を振り返し、「もしもし裕翔」と電話に向き直った。
「とにかく、用がないならもう切るからな」
『え！待って待って！おねがい先輩！ちょっとだけ！』
「……えぇ〜」
フラッシュバックした甘酸っぱい思い出に誠実さを取り戻したはずなのに、裕翔の一生懸命な呼びかけに、つい耳をかたむけてしまうのは、やっぱりちょっと裕翔に甘すぎるかもしれない。
ごめん山田……ほんと、まじごめん……。
心のなかの謝罪も、さっきよりちょっと声が小さくなってしまう。
もっとがんばれ！誠実なおれ！
「ほんとなんなのおまえ……」
『でもさ、ほら！こういうのドキドキしない？秘密の電話！』
「そういうドキドキは求めてません」
ドキドキっていうか、これバクバクだから。
窓ガラス一枚隔てて、恋人と、先日キスをした後輩との電話。
首筋が冷えるような感覚に、心臓が跳ねる。
おれの気も知らず、裕翔はあれこれ話題を探しては会話を引き延ばしてくる。
『あっ、じゃあ今日おれが見た夢の話聞く？超面白かったんだよ！』
「聞かねえよ」
『夢のなかでおれピーチ姫だったんだけどね、先輩がマリオで悪のキノピオにさらわれちゃうの』
聞かないっつってんのに勝手に話し出すし！
しかもちょっと先が気になるやつ！！
山田……ごめんな…。
誠実なおれは、もはや鳥の羽音レベルのささやかさだった。
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komikku(プロフ) - とても面白かったです〜！続きが気になります☆お待ちしてます☆ (2020年6月5日 8時) (
レス) id: 4ae5ae8e00 (このIDを非表示/違反報告)
あまなつ(プロフ) - みるみるみるきーさん» コメントありがとうございます！三者三様、100%の善人は出てこない重めのお話になるかと思いますが、ぜひ今後もお時間のあるときにお付き合いくださると嬉しいです。 (2020年1月5日 23時) (レス) id: 84a58c20c8 (このIDを非表示/違反報告)
みるみるみるきー(プロフ) - 新作、おめでとうございます。今後の3人の展開がとても気になります。更新楽しみにしています。 (2020年1月5日 12時) (レス) id: a47283bf22 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：あまなつ
| 作成日時：2020年1月1日 12時
