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まだ数えられるほどしか着ていない制服に袖を通す。
鏡の前に立って新調したヘアアイロンで以前より明るくなった毛先をくるんと巻いて、前髪は崩れないようにしっかりとヘアスプレーで固定。
眉毛も形を整える程度に描いて、セパレートタイプのマスカラで自慢の睫毛を綺麗にしたら目元はバッチリ。
最後にほんのり色づく桃の香りのするリップを塗ったスクールメイクの完成。
「よしっ...今日もウチ、かわいいっ！」
鏡に映るちょっとおめかしした自分に今日も魔法の言葉をかけて、まだ型崩れしていないスクールバッグを手に取って家を出た。
高校生になってまだ数週間。
ウチ、神山智美が通ってる学校は勉強しっかりして良い成績を取っていればメイクや制服の着こなしには特に口を出してこない。
オシャレ好きで自分磨きが趣味な私にとっては、ちょっとお勉強は頑張らなあかんけど最高の環境ってこと。
けど、それだけでこの学校を選んだわけじゃない。
もうひとつ、むしろ、こっちの理由が大本命。
家を出て通学路に向かわず、そのまま真隣の家の前に行く。
インターホンを押して待ってると扉の開く音と共に聞こえたのは女性の声。
「おはようさん、ともちゃん！」
「おばちゃん、おはよう！だいちゃんは？」
「大毅なら朝練あるって言ってもう出てったよ？」
「えー！？またぁ？一緒に行こうと思ってたのに！」
地団駄するウチ見てだいちゃんママが笑う。
ぷりぷり文句言いながらおばちゃんに「ありがとう、いってきます」と告げてとぼとぼと学校への道のりを歩き始めた。
ウチがこの学校を選んだもうひとつの理由。
それは幼馴染で私の好きな人、だいちゃんがおるから。
ひとつ年上のだいちゃんは陸上部で短距離を専攻してて、もうな、あのゴールまで駆け抜けるだいちゃん、ほんっまにかっこいいねん！
だいちゃんとはちっちゃい時からのお隣さんで、母子家庭であるうちのことをよく気遣ってくれはって家族ぐるみで仲が良い。
ちっちゃい頃からガキ大将みたいなイタズラっ子なだいちゃんやけど、「とも！」って白い歯をいっぱい見せながら手を引いてくれる姿にいつの間にか初恋を覚えて、もうずっとだいちゃんに恋してる。
この春からやっとだいちゃんと同じ学校に通えることになって家もお隣やから一緒に通学できる！ってウキウキやったんに、ここ最近のだいちゃんはどこかウチにそっけない。
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作者名：いえやす | 作成日時：2023年4月12日 8時
