ａｄｄ６ｆｆ ページ4
「 ......サイテー！！ 」
バンッ！とテーブルを叩く音が鳴りその拍子にガチャン、とティースプーンが揺れて金属音が響く。
同時に飛んできたのはヒステリックな怒号と冷水やった。
"サイテー"なんはどっちやねん、っていうツッコミは大人しく飲み込んでおく。余計に面倒なことになりそうやし。
時が止まったようにぴたりと周りの話す声や音が一瞬止んで勢いよくヒールが地面を蹴る音だけが鳴り響いた。
頭から思いきり被った水は髪や輪郭に沿って伝うとぽたぽたと滴りデニムの青をさらに色濃くしていく。
再び音を取り戻した空間はただただ居心地が悪かった。
「 ......ごめん、 」
「 あ、いや、とりあえず......出ましょか 」
生憎ハンカチなんてものは普段から持ち歩くタイプでもないし、濡れた顔を袖で雑に拭って髪は適当に手櫛で水分を飛ばした。
3人分のドリンク代を支払ってカフェを後にする。
ひゅう、と体を撫でる風がやけに冷たく感じて思わず身震いし両手で自分を抱き締めるようにして身を縮こめた。
心配そうに俺を見つめてハンカチを差し出してくる彼に再び頭を下げた。
「 ほんっまごめん！変なことに巻き込んでもうて 」
「 いや、それは全然ええんですけど..... 」
「 今日の料金はちゃんと払うから、もう帰り？ 」
申し訳なさすぎるこの状況に頭を上げるにも上げられへん。
醜態を晒した上に用が済めば結構です、やなんて身勝手にも程があるのは承知で相手が怒りか呆れか、どっちにしろ黙り込んでしまうのも仕方がない気がする。
レンタル彼氏として仕事で来てくれたとはいえ、本来であれば可愛らしい女の子と今頃デートを楽しんでいるはずやったんやもんな。
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作者名：いえやす | 作成日時：2022年9月1日 1時
