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「しげさぁ、子供ほしい?」
「えっ、産んでくれるん?」
「アホか」


テレビで特集されてるかわいらしい動物たちを眺めながら今日ショッピングモールで見かけた光景を思い出して漠然と浮かんだ疑問。
しげってたぶん元々子供が苦手な部類ではないと思うし、昔子供の面倒を見る番組をしてる時も積極的に動いたり扱いはうまかったし。
おれと出会ってなければ、この業界に入っていなければ、しげは今頃女性と付き合って結婚して愛を育んで、しげに似たやんちゃな子供に恵まれて幸せな家庭を築いて過ごしてたんやろうか。
架空の未来図を想像をしてゾッとする。
おれの人生にしげがおれへんなんて有り得へん。
今までしげが選択してきたものが少しでもズレていたら、おれたちは、おれは、


「俺さ、グループのセンターやけどこんなんやんか」
「こんなん、て」
「ええからええから、ちょっと聞いて?」


自分から質問しておいて話を広げないおれを特に不思議がることもなくしげが淡々と話し出す。
いつの間にかテレビは消されていて液晶にうつるしげとおれの姿。
しげがおれの方に身体を向けるとふくふくとしたおれよりも小さな手でおれの両手を包んだ。
ちょっとだけ深爪気味で、たくさんのものを手放してたくさんの夢を掴んできたおれの大好きな手。
手の甲をすりすりと親指で撫でる仕草は昔から。


「俺ってそんな器用な奴ちゃうしさ」
「ほんまに一個のことにしか集中できひんタイプやから、」
「せやからこの先もずっと神ちゃんだけを愛する自信はめっちゃあんねん」


くっきりとした二重まぶたに囲われた瞳が覗き込むように見つめてくる。
普段おちゃらけて変顔ばっかしとるしげがおれだけに見せる溶けるような甘くてやさしい顔。
繋いでいた手を引っ張られて身体を引き寄せられるとそのまま胡座をかいていたしげの足の上に座らされてコアラのように腰に脚を絡ませる体勢になる。
自然としげの肩に腕を回す形になって背中にはしげの逞しい腕が回って大切に抱き締められる。
全身でしげのぬくもりや鼓動を感じて自然と身体の力が抜けていく。


「子供ももちろん好きやで。好きやけど、」
「それ以上に今俺が大切にしたいと思うのは神ちゃんやねん」


しげはいつもおれが欲しい言葉を真っ直ぐ伝えてくれる。
今までおれがどれだけその言葉たちに救われてきたか、しげは知ってるかな。


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作者名:いえやす | 作成日時:2022年9月1日 1時

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