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熱気で曇る鏡、7人分の荒い息遣い。
凍てつくような寒さが去っていき幾分かあたたかさを感じ始めつつも、まだ寒さの残る季節。
しかしここが常夏にも感じるほどの身体の火照り具合。
滝のように溢れ出す汗が肌を伝ってぽたりと床に滑り落ちた。
次のツアーのために何とか全員でスケジュールを合わせながら練習に明け暮れる日々。
俺たちの音楽で救われる人がいれば、笑顔にできれば。
そういう思いと、ずっと7人で肩を並べてこの先の未来を進んでいきたい。
そんなことを胸に秘めながら今日も鏡を前に振り付け、歌割りのチェックを入念に行っていった。
「今日はここまでにします」
その言葉と共にばたりと倒れ込んだ俺たち。
最近は各々が色んな場で活躍をする機会が増えてきて、今日も全員が集まれたのは夕方頃だった。
リハ室の時間を見れば短針はとっくに12を過ぎていて夜も深くなろうとしていた頃やった。
汗だくの火照った身体を冷やすように床にへばりついていた俺たちは腹が減っただの、風呂に入りたいだの、ぼやき始めのそりのそりと身体を起こし始める。
マネージャーの安全運転によりそれぞれの自宅に送られていく中で、俺は神ちゃんと同じ場所で車からおりる。
数日前、上の住人の漏水のせいで俺の家まで水浸し。当分は修理等で住むことができなさそうなので、仮住まいのことでマネージャーに相談してるときにちょうど神ちゃんが通りかかったので状況を説明すると「ウチくる?しげがええなら」なんて提案をしてくるから即答で「行く!」と言ったのが始まり。
ほら、神ちゃんとは昔同室やったこともあるし気心も知れてるし。
なんて建前ばっか並べて、本音は神ちゃんが好きやから。
俺の片思い。神ちゃんもきっとシンメやから、そらちょっとはほかのメンバーよりは特別な感情を抱いてくれてると思うけど。
でもそれが恋愛的な特別感といったらたぶん別なんやと思う。しらんけど。
「ただいまぁ」
神ちゃんが鍵を開けて家の中に入っていくのに続いて俺も足を踏み入れる。
迎えてくれたのは神ちゃんが溺愛する王子と姫。
しゃがみこんで赤ちゃん言葉を連発しながらわしゃわしゃと我が子達を可愛がる神ちゃんのほうが俺にとっては一番かわいく思えてまう。
ごめんやで、おふたりさん。俺も溺愛してんねん。
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作者名:いえやす | 作成日時:2022年9月1日 1時