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電車が停車して足軽にホームに降り立っていくしげ。
あと3駅先がおれの最寄り駅。
もう少し一緒にいたかったな、って今日だけでこんなにも距離を縮められたことが奇跡に近いのにもう欲ばりになってしまってるおれ。
もしも、学校で見かけたら声かけてもええんかな。
一時間も満たない夢のような時間やったけど、しげとはどこか昔から一緒におったような安心感があって。
先輩とか後輩とか関係なく接してくれるところとか、お友達さんに向けてた笑顔を同じようにおれに向けてくれるところ。
今日の出来事でさらに増したしげへの強い気持ち。
扉がプシューっと音を立てて閉まる。
顔を上げて窓の外を見れば、気だるそうにポケットに片手をツッコミながらこっちをみて手を振るしげの姿。
きゅーって胸が締め付けられる。
ゆっくりと動き出した電車。
にこにこと笑うしげが視界の端でゆっくりと口を開く。
＿＿＿＿＿＿『またあした』
見間違えでなければ確かにそう紡がれた言葉。
窓の外はいつのまにか風景へと変わって、しげの姿はとっくに見えなくなっていた。
無意識に緊張していたのか、一気に身体の力が抜けていく。
目を閉じればすぐにでも浮かんでくるしげの姿。
ころころと表情を変えて身振り手振り多く話すところや、邪魔そうに目にかかる前髪を軽くかきあげる仕草。
頻繁に袖を捲るのはきっと彼の癖で、そこからあらわになる腕は案外男らしく逞しいものやった。
「......っ、なんなん、ずるいわ...、」
はあ〜〜〜、と盛大なため息。
きっとしげの中のおれは
"雨の中、傘にいれてくれた親切な人"
くらいの認識なんかもしれん。
おればっかり自覚していく恋心に少し寂しさを感じつつも遠目で見てるだけやった恋は確実に動き始めてる。
きっと後にも先にもこんな気持ちになることって、二度とないと思うから。
しげが言ってくれた『またあした』を信じて最寄り駅まで揺られる。
───それにしても、なんでしげはおれがまだ先で降りることを知ってたんやろか。
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作者名：いえやす | 作成日時：2022年9月1日 1時
