１１１．電話連絡 ページ12
次の週明けに退院して、一度家に戻った。
店に顔を出したかったけど思ったよりも体力が落ちていたし、
男の人と冷静に話せるか自信がなかったのもあって、
申し訳ないと思いつつ電話で連絡させてもらった。
「なぁ、またここに戻ってくるよな？」
「先輩…」
「お前がいないとさぁ、
常連のお客さんすげぇテンション下がんだよ」
ちょっとうまく返事できなくて黙っていると、
「あ、店長来たわ。代わんぞ」
電話の主が交代した。
実家近くの病院に転院することを先輩が手短に告げたらしく、
店長は電話の向こうでだいぶ長いこと黙っていた。
しばらくしてからいつもみたいにフーッと煙を吐き出す音が聞こえて、
「…必ず戻ってこいよ」
「店長、でも」
「戻ってこい。
じゃなきゃ５年前にお前をスカウトしたとこから無駄になるだろ」
「…」
「いつになってもいい。
分かったな？」
「…はい」
「よし」
「あの…お店にも迷惑かけちゃって、すみません」
「気にするな。
客には修行に出てるとでも言っとく」
ぶっきらぼうな優しい声に礼を言って電話を切った。
その手で旅行バッグを引っ張り出してきて荷造りにとりかかる。
ある程度詰め終わったところで、
「…」
ふと窓辺に目が留まった。
キャラメルが入った瓶だ。
(まぁくん…)
瓶を見ただけであの笑顔が条件反射のように浮かんでくる。
少し迷ってから手にとって、
洋服で包んでからそっと旅行バッグに入れた。
「おかえり、待ってたのよ」
地元の駅に着くと、
驚いたことに両親が揃って待っていてくれた。
私の顔を見た母は少しだけ涙ぐんでいたけれど、
２人ともあえて何も聞かないでいてくれたのが嬉しかった。
「A、ちょっとここに座って」
実家に着くと母は途端に看護師の顔になって私にケガを見せるように言い、
思っていたよりもキレイに治りそうだとホッとした顔で笑った。
「母さん、あの…」
「いいから」
「え？」
「…話したくなったら、聞くわ。
父さんも同じ意見」
「…ありがとう」
そう言うのが精一杯だった。
うつむいた私の頭を、
母は子どもの時のようにそっと撫でた。
ラッキーカラー
あずきいろ
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薫子(プロフ) - maiさん» コメントいただきありがとうございます！車内で涙腺崩壊との事、大変申し訳ございませんでした(^_^;) 長く辛い場面が多かったと思うのですが、この先のシーンや続きのお話は（概ね）幸せ仕様となっておりますので、また折々にコメントいただけたら嬉しいです♪ (2019年2月20日 21時) (
レス) id: aa5d845008 (このIDを非表示/違反報告)
mai(プロフ) - 初めてコメントします。主人公ちゃんが暗い部屋で手紙を胸に抱きキャラメルの瓶、、、で涙腺崩壊です。今帰宅ラッシュの車内なんですけど笑、その前の1通目の手紙を読み始めたシーンは乗り越えたんですけど、前を向いて努力しているシーンはダメでした（涙） (2019年2月20日 18時) (レス) id: a46eecf3b7 (このIDを非表示/違反報告)
薫子(プロフ) - 知代さん» そうなんです、まぁくんが知らない時間の経過を書いてる章なので、書いてて私も新鮮だったというか(笑) 字の上手下手とかでなく、手紙って書いた人の気持ちがダイレクトに伝わりますよね。私もそうやって手紙に力をもらうことが多くて、だからこの章は結構好きです＾＾ (2013年12月31日 19時) (レス) id: 6043de2546 (このIDを非表示/違反報告)
知代(プロフ) - この章は、本当に主人公ちゃんサイドが新鮮でした！ 手紙って、いいですよね。メールよりその人の気持ちが生きている気がして好きです。まーくんの手紙は人一倍あったかそうだ！！笑 (2013年12月31日 19時) (レス) id: fcde1493f2 (このIDを非表示/違反報告)
薫子(プロフ) - 弥生さん» 弥生さん＞2002年の結成当時から大宮ＳＫは自称『隙間産業アイドルユニット』なんですよ＾＾ 昨日は私も早々とソファーで寝落ちしてました(笑) 寝るなら布団でって誓ったのに…！ (2012年12月14日 22時) (レス) id: c4910a8134 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：薫子
| 作成日時：2012年7月13日 0時
