◆-128-◆春の味 ページ9
３人が見守る中で相葉がおそるおそるグラスを口にする。
試作品と言われたカクテルだが、
「わ、すげ…」
飲んでみるとそれは記憶の味とぴったり一致していた。
「…いかがですか？」
黙り込んだままの店長を代弁するかのように、
田野がそっと相葉に問いかける。
その田野も、彼女のことを孫娘のように可愛がっていた。
相葉はそのことを切なく思い出しながら小さく頷いた。
「や、なんか……もう…」
何も答えずとも涙目の自分を見れば察しがついたに違いない。
田野は目を細め、何度も嬉しそうに頷いた。
(懐かしいな…)
大野に連れられ初めてこの店に来た日のことを遠く思い出した。
あの時まだ彼女と自分はお互いの顔も知らず、
注文を受けた彼女が相葉のために初めて作ったのがこのカクテルだった。
そのふんわり優しい香りと甘さは、
今思うと彼女自身を一番表しているようだった。
「…」
小さな丸テーブルを４人で囲み誰も喋らなかったが、
気詰まりな感じは全くない。
それぞれが彼女を思い出し話しかけているからだろうか、
それは温かさに満ちた穏やかな沈黙だった。
(…みんなAさんのこと大好きだったもんね…)
店長の小原もスタッフの田野も相原も…そして自分も。
皆彼女のことを心から好きで、大切に思っていた。
「…ごちそうさまでした」
逆三角形のグラスのお酒をゆっくりと、
記憶をなぞるようにしながら空けた。
「…そうしましたら、次にこちらからこう注いで…」
「こう？ …あーダメだ濁っちゃった」
先ほどの酒の配合をメモしてもらい、
横について手順を教えてもらっているうちに、
「あ、そうだ…すみません。
あともうひとつ教えてもらえますか？」
懐かしいカクテルがもうひとつあったことを思い出した。
「ライム…ですか？」
「はい」
それは初めて彼女と２人で遊びに行った時、
「え、激ムズじゃんそれ」
やり取りを聞いていた相原がおかしそうに笑う。
味を再現するには先ほどと違い相葉の記憶に頼るしかなく、
「えっと…えっとあと確か…」
大抵ポーカーフェイスの小原もさすがに困り顔だったが、
それでも辛抱強く相葉の話を聞き、レシピを考えてくれたのだった。
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薫子(プロフ) - さやさん» いつもありがとう！ご想像通り解放感に満ち溢れておりまーす(笑) とにかく完走できてホッ！次はリーダー終わらせてあげなきゃ(-_-;) と言いつつ他の話も書いてるとこなのでまたどうぞよろしく♪ (2017年9月30日 15時) (
レス) id: bb4ba45953 (このIDを非表示/違反報告)
さや(プロフ) - 取り敢えず〜！お疲れ様でした！お話のお陰で以前の楽譜を引っ張り出して、ｱﾀｼも再チャレンジしてました！その時はできなかった弾き方を求めて…といいつつ、２回もお話を楽しませて頂きありがたき幸せw (2017年9月30日 8時) (レス) id: d0bf1f7a31 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：薫子
| 作成日時：2017年9月9日 9時
