217. ページ18
.
私たち8人を乗せた車は紅白の会場に到着し、すぐさまメイクと着替えを促される。
何度か衣装チェンジはするけれど、まずはオープニングの白スーツから。
全員でピシッと揃えた真っ白なジャケットと、私だけはパンツの代わりに黒いフレアスカート。
ブルーの鮮やかなチーフをポケットに差し込みながら、仲のいいスタイリストの花ちゃんに、こっそりと耳打ちした。
｢ごめん…何も聞かずに、どこかで妊娠検査薬、買ってきてくれへん？｣
花村｢へっ？…妊娠、って…｣
｢まだ確証は無いねん。
お願い、紅白が終わるまでに何とか…｣
私の真剣な表情に困り果てた花ちゃんは、『分かりました』と呟き、ジャケットのボタンを嵌めてくれる。
やっぱり、確認だけはしなきゃ。
激しく動くであろう、カウントダウンのステージまでには。
花ちゃんの白い手に千円札を一枚握らせて、私はメンバーの後に続き、紅白のステージへと足を踏み出した。
やがて紅白は中盤に差し掛かり、ハーフタイムショーとニュースを挟み、後半戦になればすぐに私たちの出番がやってくる。
大御所演歌歌手の後ろでバックダンサーをしてからは、衣装替えと休憩の為に控え室へと戻り、大きく貼られたタイムテーブルにもう一度目を通した。
花村｢あのっ、Aさん…｣
外の廊下から、控え室のドアを少しだけ開いて私を手招きする花ちゃん。
その手には、小さな茶色い紙袋が握られていた。
｢ごめん、ほんまありがとう｣
息を切らせた彼女に頭を下げ、私は紙袋を受け取ると、着替えを始めているメンバーを振り返ることなく、近くの女子トイレへと駆け込んだ。
まだ衣装も着替えていないし、ヘアメイクだって直さなければいけない。
トイレにこもる時間は言うまでもなく限られている。
私は個室のドアを勢い任せに閉めると、紙袋の中から細長い箱を取り出した。
…1分も経たずに、結果は出た。
浮かび上がった2本の赤い線に、喜びと不安が一気に攻めてくる。
一刻も早く圭人とメンバーに報告してあげたいけれど、カウントダウンだけは出演したい。
悩んでいる時間も無く、私は検査薬を握りしめたままトイレを飛び出し、控え室へと飛び込んだ。
｢あのっ！皆！！
あたし、赤ちゃんできた…！！｣
｢｢｢…はぁっ？？！！！｣｣｣
この時の7人の間抜けな表情を、きっと私は一生忘れない。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 109人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
紅羽(プロフ) - 恋するバイリンガル最後まで読ませていただきました。お疲れ様でした また、短編集や新作ゆっくりでもいいので書いて欲しいです！！楽しみしてます！ (2018年7月22日 23時) (
レス) id: 765bb6b86f (このIDを非表示/違反報告)
紅羽(プロフ) - 色々大変かと思われますが少しずつでもいいのでこれからも更新楽しみにしています！微力ながら応援しています！頑張ってください^ ^！ (2018年7月5日 21時) (レス) id: 765bb6b86f (このIDを非表示/違反報告)
紅羽(プロフ) - 布由さんはじめまして！いつもこちらの作品楽しみに見させて頂いてます！ 圭人くんのニュースビックリしましたが、脱退じゃなくて一安心しました。 そして今回の大阪の地震私の住んでいる所も凄く揺れました。 (2018年7月5日 21時) (レス) id: 765bb6b86f (このIDを非表示/違反報告)
りぬここ - 読んでいる側としてもいつも楽しく読ませていただきました！また他のお話ができた際には是非読みたいと思っています！これからも応援しています。 (2018年4月30日 17時) (レス) id: a2b269496c (このIDを非表示/違反報告)
りぬここ - 今まで沢山の楽しいお話をありがとうございました。渋谷さんが辞めてしまったことをニュースで知ったのですが、ファンじゃなくてもえっ…ってなってすごく悲しい気持ちになりました。素敵なお話を忙しい合間を縫って作っていただき、ありがとうございました！ (2018年4月30日 17時) (レス) id: a2b269496c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：布由 | 作成日時：2017年12月14日 2時
