[めいこい]書生と狂気の美術館[ib] (ページ1)

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プロロオグページ1

「……ちょっと、遅いんだけど。早くしなよね、愚図っ」

「す、すみません。あれ、リボンが……」

鏡花さんの視線が突き刺さって痛い。怒ってるよね……ごめんなさい、あと髪だけ整えさせて……！

こんな事なら昨日、早く寝るんだった。

*

ゲルテナ。

生前と変わらず今も賞賛を浴びる、一人の画家。けれど、制作活動は絵だけに留まらず彫刻なんかも作っている……マルチな芸術家だ。

見るものを不安にさせたり、圧倒させるような作品が多い。……らしい。

そして、今月はこの近くの美術館で彼の作品展が催される。

私は春草さんと鏡花さんの誘いで(恐らく鴎外さんとお姐さ……音二郎さんの図らいだろうけど)私も行くことになったのだ。

正直、嬉しかった。

あの二人が素直な気持ちで私を誘った訳では無いにしろ、何かと言動がきつい二人なだけあって、こういう趣味のことに付き合えるのが。
単純なのだろう私は、普通に嬉しかった。

*

(それで眠れなかった……って言ったら、馬鹿にされるよね)

その上寝坊してしまったのだから。

「あ、菱田」

「えっ、迎えに行こうってなってたのに来ちゃったんですか！？」

あんたが遅いからだよっ、とたしなめられる。
鏡花さん、手厳しい……

待っててくれるあたり優しいんだけど。

鼻緒を整えて玄関に出ると、和服姿の春草さんが欠伸をしながらこちらに歩いてくるところだった。

「悪いね、この子が愚図なために」

お母さんみたい、鏡花さん……

「別に。人力車、そこに止めてるから……行くよ、お寝坊さん」

「は、はい……すみません」

寝坊だって見抜かれた。どうしてだろう？

首を傾げていると、春草さんが振り返って人差し指を突き出した。

「着方が少し雑だし目のとこちょっとくま出来てる。あと自分じゃ見えないんだろうけど、後ろに寝癖」

「なっ、」

慌てて後ろ髪を押さえる。
……書生の人って、みんな鋭いのかな。