EPISODE:38 ページ15
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「………」
沈黙がこの場を支配する。
言いたいことを全て言い切ってしまった狗丸さんが、とっくに見えなくなった背中から逸らすように振り返る。
「り…、了さんに逆らっちまった。でも…でも、これで間違ってないよな!?」
僕達4人は顔を見合わす。
全員が同じように、困り顔をしていた。
「…いや、ちょっと…」
「困るんだけど…」
「出たくないっつってんのに…」
「…『何で出ることになってるんですか?』」
「嘘だろ!?やめろやめろ…!!俺の肩叩いて、やってやろうぜとか、言ってくれるターンじゃねぇのかよ!?」
1人叫ぶ狗丸さんに、棗さんが小馬鹿にするように薄ら笑いを浮かべた。
御堂さんは疲れたみたいでどこか遠い目を向けている。
「ドラマの観すぎですよ、狗丸さん」
「うわあ、啖呵切っちゃってる…って若干ひきながら見てた」
『言ってることがクサかったです。なんか…もうちょっとなかったんですか?』
「先走り過ぎなんだよ!なんで、いきなりそんな熱くなってんの?」
了さんの次はメンバーからの集中砲火を受け、怒りや理不尽よりも戸惑いの気持ちの方が勝っている様子。
最初は喚くように叫んでいたものの、自信をなくしたのか段々と声は小さくなっていった。
「…だって…お前らが嫌がってんのに無理強いするし、お前らのこと馬鹿にすっからよ…」
「…………」
「…ちょっと、止めてください…。アットホームな空気流れちゃってるでしょう」
「なんか…胸のあたりがこう、擽ったい感じが…」
「面倒くせえ…マジで面倒くせえ…」
「……『本気で出るんですか?』」
3人が話し始めてくれたお陰で、何とか回らない頭で筆を動かすことが出来た。
気まずい空気に耐えられず、視線をさ迷わせ、やがて時計の針へと行き着く。ライブが終わってから未だ時間は経っておらず、それは身体に溜まる疲労を説明出来た。
傍に配置されていたソファーに全体重を預けるように腰掛ける。
「勿論だ!言っちまったからにはやるしかねえ!
俺たちの実力認めさせてやろうぜ!」
「言ったのトウマじゃん!」
「嫌だな…生卵ってぶつけられたら痛いのか?」
「…デンマークのロックフェス…ノースメイアに近いですね…」
_ああ、でも。
あの日々に比べれば、苦手な少し寒い土地も、罵詈雑言も、生卵も、遥かにマシかもしれない。
「……A?」
ペンを持っていた手が、だらりと垂れた。
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如月(プロフ) - かんざしさん» コメントありがとうございます!とんでもないほどの亀更新ですが、お付き合い頂ければ幸いです! (2022年7月23日 9時) (レス) id: 84c586e8ee (このIDを非表示/違反報告)
かんざし(プロフ) - いつも楽しく読んでいます。更新楽しみにしています。 (2022年4月10日 9時) (レス) @page22 id: d0a7163713 (このIDを非表示/違反報告)
如月(プロフ) - じんさん» コメントありがとうございます。いい作品と言ってもらえ、とても嬉しいです…!A3!も余裕が出てくれば書いてみたいと思っているので、その時は読んで頂ければ幸いです。これからもゆっくりですが、更新頑張りますのでお楽しみに…! (2021年5月6日 22時) (レス) id: 84c586e8ee (このIDを非表示/違反報告)
じん(プロフ) - コメント失礼します。とてもいい作品だなと思いました。A3!も良いですよね〜(アイナナはゲームをしているのですが、なぜかA3!はダウンロードしても起動せず、ラノベで楽しんでます。)これからも楽しみにしています。(コメント中失礼な文があればすみません。) (2021年5月6日 22時) (レス) id: 8477ec0dd8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:如月 | 作成日時:2021年1月9日 16時