EPISODE:36 ページ13
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「それはお祝いの花束だよ。『レッドヒル・フェスティバル』出演決定おめでとう!」
途端に嫌でも頭の中をぐるぐると情報が駆け巡る。
『レッドヒル・フェスティバル』といえば、デンマークで開催される世界的規模の野外ロックフェスだ。世界中のロックファンが集まるため、毎年喧嘩騒動が起こるので個人的に良い印象は持っていない。
「バンド演奏をしない私たち、まして、新人アイドルは歓迎されないのでは?」
棗さんの指摘は的確だ。
音楽に対して熱量を持っている人たちを馬鹿にするようなものだ。喧嘩騒動をも起こる場所でならば、尚更良い選択とは言えない。
「いいよ。箔が付くんだから」
了さんはけろりとして言った。
_何だか、むしゃくしゃする。
何故だろうか。突然に、胸の奥を引っ掻きたくなるような衝動に駆られた。代わりに右手の平に爪が食い込むまで握り締める。
確かに了さんの言う通りだ。海外のロックフェスなんて態々出向く人間の方が少ない。メディアはツクモに逆らえないのだから、ロックフェスは拍手喝采のまま幕を閉じたと嘘の情報を流すよう指示すれば良い。
それが1番楽で、確実で、目標へとまた一歩進むための道であることは十二分に分かった。
それでも、この足を踏み出したくないのは何故だろう。
「おいA、どうしたんだよ?」
「っ、」
亥清に声を掛けられ、思考の海から顔を出す。
本当にどうしてしまったのだろう。先日、ゼロアリーナで偶然集まった日からどうにもおかしい。
感情をコントロール出来ない感覚が気持ち悪い。これは、あの日を思い出すから好きじゃないのに。
『大丈夫』
また、過去に書いた文字を掲げた。
「…そうかよ」
琥珀色の瞳が逸らされる。
きっと間違えた。
亥清は頼られる方が嬉しいのだろうと、この間自分で分析したばかりなのに。
何もかも、上手くいかない。
「場違いな海外のロックフェスに出なくたって、俺たちは日本で力を付けてやる。ブラホワでIDOLiSH7に勝ってみせる」
「馬鹿だなあ、トウマ。TRIGGERに負けた時だってそう思ってただろ?」
「…っ、今度こそ勝てるさ!
俺たちなら、ŹOOĻなら、小細工をしなくたって、IDOLiSH7に勝てる!俺たちにだって本物の価値がある!」
「ないよ。お前たちはアイドルのステージを、めちゃくちゃにする為だけのマネキンだ。そういう話だったじゃないか。今更何言ってるの?」
_やっと分かった。
僕は、この人にイラついている。
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如月(プロフ) - かんざしさん» コメントありがとうございます!とんでもないほどの亀更新ですが、お付き合い頂ければ幸いです! (2022年7月23日 9時) (レス) id: 84c586e8ee (このIDを非表示/違反報告)
かんざし(プロフ) - いつも楽しく読んでいます。更新楽しみにしています。 (2022年4月10日 9時) (レス) @page22 id: d0a7163713 (このIDを非表示/違反報告)
如月(プロフ) - じんさん» コメントありがとうございます。いい作品と言ってもらえ、とても嬉しいです…!A3!も余裕が出てくれば書いてみたいと思っているので、その時は読んで頂ければ幸いです。これからもゆっくりですが、更新頑張りますのでお楽しみに…! (2021年5月6日 22時) (レス) id: 84c586e8ee (このIDを非表示/違反報告)
じん(プロフ) - コメント失礼します。とてもいい作品だなと思いました。A3!も良いですよね〜(アイナナはゲームをしているのですが、なぜかA3!はダウンロードしても起動せず、ラノベで楽しんでます。)これからも楽しみにしています。(コメント中失礼な文があればすみません。) (2021年5月6日 22時) (レス) id: 8477ec0dd8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:如月 | 作成日時:2021年1月9日 16時