キス ページ9
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駅から私の家への道。
櫻井と二人並んで歩く。
なんだか気まずくて、目も合わせられないし
話を切り出すことも出来ない。
半歩先を歩く櫻井の背中を見つめるだけ。
櫻井の後ろ姿をこんなに見つめたのは初めてで、
意外と筋肉質で男らしい背中してる、とか
色々思いながら歩いてたら、
気づくと私の住むマンションのエントランスに着いた。
櫻井の足が止まる。
私はまだ、櫻井の背中を見つめたまま。
その背中が、くるっと振り返った。
「な、なに」
思わずキョドる。
「A」
櫻井の両手は私の頬を包み込んで、
瞬間、私の唇に櫻井の熱が移った。
「ん、っ…ちょっ、と!」
櫻井の胸を押し返したら、
櫻井は頭の後ろをポリポリと搔く。
「わりぃ…また月曜な、おやすみ」
そう言って、駅の方へと歩き出す櫻井。
マンションのエントランスからその姿を見送るだけで
私の思考は停止した。
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その日。
私は眠れなかった。
何故か。
櫻井のせいだった。
櫻井が。
あの櫻井がキスをした。
私に。
私にキスを。
あんな顔で。
あんな、切なそうな泣きそうな顔で。
だけど、
どこか愛おしいものを見つめるような瞳で。
『俺、好きなやつはいるよ』
櫻井の言葉を思い出す。
まさか。
まさか、ね。
私と櫻井はただの同期で、友達で、仲間で。
そんな色恋、私と櫻井には絶対に有り得ないって
勝手に、決めつけてた。
だからなのか。
だから、櫻井はあの時、私を鈍感だと言ったのか。
本気か、からかいか。
分からずにグルグルと思考を巡らす。
結局、その日は朝まで眠れなかった。
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作者名:湊 | 作成日時:2018年7月18日 0時