のど飴 ページ35
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ガラス張りの喫煙所。
少しだけ重たいガラスの扉を開けたら
ツーンと匂うタバコの香り。
あぁ、二宮くんのタバコだ。って、
そう思ったら
あの日を思い出して、体が熱くなる。
｢おはよう｣
声をかけたら
ふっ、と私を見た二宮くんの瞳は
相変わらず鼈甲色。
｢あ、おはよ｣
｢久しぶり、だね？｣
｢え？そうだっけ？｣
｢あれ、違ったかな…｣
｢…何かあったの？｣
指先で灰をトン、と落として
私の隣に寄ってくる二宮くんからは
シトラスの香水の香りがした。
｢…｣
｢翔さんと、何かあったの？｣
｢…なにも、ないよ｣
｢…ふーん。｣
興味のなさそうに聞こえる二宮くんの返事は
ちゃんと心配してくれてるのかな、って
なんとなく思わせるようなトーンで。
キュ、って胸が締め付けられる。
｢Aちゃん｣
彼に名前を呼ばれると
｢なんか今日…｣
胸がきゅう、って
｢…やっぱ何でもない｣
苦しくなる。
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｢じゃ、俺行くね｣って、
喫煙所を出て行った二宮くん。
私は何も言えなくて
その場で頷くだけで。
デスクに着いてからは
隣の櫻井が気になって。
だけど櫻井は昨日から会社で会っても
今までと変わらず、“同期”のまま
同じように接してくれて。
それが、私の罪悪感を少しだけ
軽くしてくれていて。
｢A〜｣
キャスターをガラガラと転がして
チェアに座ったまま肩をドン、とぶつけてくる。
｢なに｣
｢お前、顔色悪い｣
｢…え？｣
｢体調わりーの？｣
｢そんなこと、ないと思うけど…｣
｢…うーん｣
｢なによ(笑)｣
櫻井があまりにもジロジロと私を見てくるから
恥ずかしさで思わず笑ってしまう。
｢…早退したら？やっぱ顔色悪い｣
｢…｣
言われてみれば
朝から体がだるーくて
二宮くんと会ったからだと思ってた体の熱さも、
二宮くんと分かれてから今まで
ずっと熱いままだ。
｢課長には俺が伝えとくよ｣
｢…ありがとう｣
｢おう｣って、少し嬉しそうに笑った櫻井は
自分のデスクへと戻ったかと思ったら
またすぐこっちにやって来て
｢手出して｣
私の掌にのど飴を置いた。
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作者名：湊 | 作成日時：2018年7月18日 0時
