裏切り ページ26
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｢誰といたの？｣
唇が離れて、櫻井のまあるい瞳が
二つ重なって見えるほど近い距離で
櫻井は私を冷たく見てそう言う。
ドキッとした。
バレた？と思った。
そう思うってことは、疚しいってことで。
私のした事と言うべきか、
された事と言うべきか、
それは櫻井を裏切る行為であって。
｢ん？｣
わざと、誤魔化すようにしらばっくれる。
｢誤魔化すなよ、誰といたの｣
｢いつの話？｣
｢俺が来る前｣
誰かと居たんだろ？って、櫻井が私を離して
スッと起き上がったら、
右手に持つ缶ビールのプルタブを
プシュッと開けた。
｢…｣
｢黙ってんなよ、なに？隠し事？｣
｢…そんなんじゃないよ、誰とも居てない｣
｢お前、洗濯カゴの中に
他の男の匂いつけた服置いてよくそんな嘘がつけんね？｣
櫻井が私を睨んだ。
怒ってる。
そりゃそうだ。迂闊だった。
｢…｣
｢…チッ、｣
舌打ちをした櫻井は、
ビールをゴクリと飲んだ。
男らしい首から浮き出る喉仏が
クイッと動いた。
｢…分かってんだよ、誰かってのは｣
｢あ、…あのね、櫻井…｣
｢弁解とかいいから。俺の周りとか有り得ねえから｣
櫻井が空になった缶ビールをぐしゃっと潰す。
｢…マジで有り得ねえ｣
｢お願い、聞いて｣
｢…｣
私が悪い。
ただ、櫻井の事だけが好きだってことを
ちゃんと伝えなきゃいけない。
二宮くんとは事故だって、
あれはそんなんじゃないって。
｢私、櫻井が好きだよ｣
咄嗟に出てきたのは弁解でも言い訳でもなく、
素直な私の気持ちだった。
｢はぁ？｣
案の定、櫻井は眉間にシワがよるほど怒ってる。
｢私は櫻井が好きなの。あんたのことなんて、
絶対に好きにならないって思ってたのに
私こんなにも櫻井が好きなの。だから、だからね
二宮くんの事はごめんなさい。
ただ、私の意思じゃないの。言い訳になるけど、
あれは事故なの。ごめん、ごめんね。
だからお願い、怒らないで聞いて？｣
櫻井の顔が、さっきよりも
いつもの優しい表情に戻ってきた
…と、思った瞬間。
私のスマホ画面に表示された着信の名前は
“二宮くん”。
あぁ、なんて神様は意地悪なの。
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作者名：湊 | 作成日時：2018年7月18日 0時
