86. 最後の家族 ページ41
あの事件から一週間たった。
もう、何ヶ月も前のような気さえしてくる。私にとって、事件後の一週間はそれほど忙しい日々だったのだ。
「ねぇ、本当に行くの?」
冬美姉さんがそう言って、悲しそうに目を伏せる。そんな姿に迷いもなく『うん』と返事を返した。
大きな荷物を手に、玄関まで向かうとそこには焦凍が待っていて歩みを止める。
「………この手を離さなければ…って、思う。…いいんだな?」
そっと私の手を握った焦凍は、私の目を見つめた。どうしても、私を引き止めたいんだね。
でも、それは無理だから。
『……焦凍、今までこんな妹と過ごしてくれてありがとう』
私達は血の繋がりなんてない。
それでも確かに家族だったのだ。でも、私はそれを裏切ることになる。
私は…家族をやめる。
「……一人暮らし、出来んのか?」
『やってみるよ』
「しょうがねぇから、俺が彼氏としてお前を迎えに行ってやる。それまで待ってろ」
『うん。それまで待ってる』
そう言って笑う。
そして、触れるだけのキスをして玄関のドアに手をかけ…。
「…おいおい、待った。誰も突っ込まないから言わせてもらうが。Aは、ここから歩いて二十分のマンションに引っ越すだけだよな?焦凍とはいつでも会えるし、高校卒業までは支援だってする。違ったか?」
呆れたような顔で夏兄がそう言った。
そんな兄に『帰る家がここじゃなくなる』と頰を膨らませてフイッと顔を背けた。
「なら、出ていかなければいいだろ」
『駄目』
「まったく。じゃあ、焦凍の彼女としてこの家に挨拶に来るのを楽しみにするか。……ほら、焦凍、姉ちゃんも。一生の別れじゃねぇんだ。二人とも、大袈裟にし過ぎなんだよ」
『本当にソレ』
「お前も同罪だ」
額にデコピンをくらい、手で押さえる。
兄のデコピンは痛い。でも、今日はなんだかそれが嬉しくて。
クスリと笑みが溢れた。
『それじゃ、もう行くね。冬美姉さん、夏兄、焦凍、今までありがとうございました』
流れそうになる涙を必死にこらえながらも、三人の姿を焼き付けた。
牴搬欧箸靴騰瓩蓮△海譴最後だ。
『お父さんにもありがとうって伝えて欲しい』
「ええ。………A、いつでも帰ってきていいからね」
「元気でな」
「A、またな」
三人に見送られて、今度こそ家を出た。
この家には沢山の思い出が詰まっている。私はここで育って…沢山救われた。
…よし、これから、忙しくなるぞ。
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おつきみ(プロフ) - moeさん» ありがとうございます!!そう言ってもらえるととても嬉しいです!!これからもよろしくお願いしますm(__)m (2018年4月21日 17時) (レス) id: 927d00d57e (このIDを非表示/違反報告)
moe(プロフ) - この作品、大好きです、 (2018年4月21日 11時) (レス) id: 32c275f53e (このIDを非表示/違反報告)
、 - 実在する人物、団体、アニメキャラ等を扱う二次創作になりますのでオリジナルフラグ外して下さい。違反行為で違反報告の対象になります (2018年3月26日 6時) (レス) id: 104648a3e7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おつきみ | 作成日時:2018年3月26日 1時