検索窓
今日:79 hit、昨日:50 hit、合計:13,506 hit

62 ページ13

それから数週間後、いつも通りあの部屋へと足を踏み入れ



『(__匡近…、)』



変わり果てた彼の亡骸を静かに眺める。



匡近は私が心から慕う、数少ない人間の一人で



そんな彼の死は…受け入れ難く、悲しかった。



本当はその場で声を上げて、泣きたい気持ちで一杯だった。



けれど、それ以上に










『…すまねェ、』










背後で私に頭を下げる、奴の存在が腹立たしくて仕方なかった。



私が匡近を思うように…アイツもまた、匡近を大事に思っていた筈だというのに



『(気でも…遣ってるつもりか…?)』



その余計な気遣いに苛立ちを覚えると同時に、



下弦の鬼を倒して、これから柱になる男が…この有り様である事に



『(随分と…惨めだな、)』



酷く呆れ返りながらも、そこで抱いた感情は全て呑み



『風柱…就任、おめでとう御座います。___』



取り繕った言葉と笑顔を、目の前のアイツに投げ掛けた。



アイツからすれば…私の言動は、皮肉でしか捉えられないと思うが



あの言葉と笑顔には、それ以上の意味がある。



…けど、アイツはきっとそれには気付かない。



勝手に罪悪感でも抱えて、乱されてればいい。



私はもう、『不死川実弥』…お前という存在に苦しめられたりはしない。



揺るぎない決意を抱き、その場を後にしたというのに



















___その日の空は、雲一つない快晴だった。



草木の揺れる音、実り始めた花の蕾



緩やかな風が春の訪れを運び、心地よいものが溢れかえる中で










『…匡近…ッ、…』










彼の墓の前で顔を伏せ、地を濡らすアイツの姿は不快でしかなかった。



此処を離れる前に、匡近と話がしたかったというのに



『(胸クソ悪いもの見せやがって…、)』



アイツのせいでそんな気も失せてしまい、



途中買った花を供える事なく、その場を立ち去った。













その後は、顔見知りの隊士に紹介してもらった、育手の下へと向かう為



アオイが持たせてくれたおにぎりを片手に、何処までも続く先の見えない道を歩き続ける。



道中、空は曇る事などなく晴れ渡っていたものの



地面にはポタポタと雫が数滴落ち、



『(傘…持ってくればよかった。)』



そんな事を思いながら、おにぎりを一口頬張り



『…塩っぱい、』



もし、この先…また蝶屋敷に足を踏み入れる機会があった時には



真っ先にアオイに文句を言いに行こうと、そう思った。

63→←61



目次へ作品を作る
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.5/10 (27 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
66人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名: | 作成日時:2023年9月18日 10時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。