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その後はアイツの死を惜しむ暇もなく、柱としての責務に追われ
相変わらず…自分からは嫌な音が鳴り響くものの、何とか剣を握り任務を遂行していった。
ただ…アイツの死によって、縋るものを失くした私は
任務が終わった後は、自身の音に対する激しい嫌悪感と自責の念に駆られ
薄暗い自室の中で、吐き出したい感情と共に嘔吐し続ける日々が続いた。
…そんな中、ふと視界にアイツの遺品が目に入り
『(このライター…私が…アイツの誕生日に、送った物だよな…。)』
送った当初は『ダサい』だ『センスない』だ…散々言われはしたが、
『(あげたの…二年前だぞ…、君が…そんなに、物持ちよかったとはな……。)』
そんな事を思いながら、残り数本となっていた煙草の箱とライターを手に取り
咥えた煙草に火をつけ、宙を舞う煙を茫然と眺める。
『…クソ…不味いな…、___』
相変わらず…それは口には合わなかったものの、
かつてアイツが纏っていた煙草の匂いは、私の心を落ち着かせた。
その日から、私は煙草を吸い続ける事で
時折、溢れそうになるあの衝動を煙に巻き、自分自身に歯止めをかけ生きてきた。
ただ…その衝動を抑えられたとて、自分から鳴り響くあの音は…未だにはっきりと聞こえている訳で
『…実弥、先戻ってろ。私は後で行く、』
そんな音を出してしまう自分に嫌悪感を覚え、刀を握った後は…時折一人になりたくなる。
『もし…何か、抱えてンならよォ…少しは俺を頼___』
背後からは、自分の音とは対照的な…何処か温かみのある実弥の音が聞こえ
『(君の音は…私と混ざっていいものじゃないな…。)』
そんな事を思いながら『問題ない』と告げて、その場を即座に離れ
自分から鳴り響く…この醜い音が、鳴り止むまでの間は
薄暗い場所で身を潜め、視線を落としながら耳を塞ぐ。
『(「問題ない」…か。随分と…嘘が上手くなった…)』
涼しい顔をして、気丈に振る舞ってはいるが
私の心は自己嫌悪という名の毒で存分に蝕まれ、
誰にも悟られないよう、アイツが死んでからは…ずっと一人で抱え込んできた。
けど…やはり、それは辛くて…苦しいもので
思わず、誰かに助けを乞いたくはなるものの
『(…人を頼るのは…苦手なんだ…、____)』
そんな事を思いながら、静かに瞼を閉じ
夜明けと共に自身の音が鳴り止む事を、ただただ待ち侘びていた。
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作者名:雫 | 作成日時:2023年7月19日 18時