48 ページ48
____あれは…厳しい冬の寒さを乗り超え、春の兆しが見え始めた時期の事。
アイツとの任務で下弦の鬼と対峙し、頸を斬り落とした後
『颯斗、その怪我…大丈夫か。傷が深いようだが…、』
そう声を掛けるものの、アイツは何事もなかったかのような顔をして煙草を取り出し
『これくらいなんて事ねぇ。つーか…お前のその怪我もなかなかだろ、俺より自分の身体心配しろ。』
辺りに煙を漂わせるアイツと共に、帰路に着こうとすると
近くの民家から悲鳴が聞こえ、互いに深手の傷を負ってはいながらも、すぐさまその場所へと向かう。
そこには、鬼に襲われ助けを求めている少年の姿があり
颯斗はすぐさま鞘から刀を抜き、鬼の頸を瞬時に捉え
『 風の呼吸、肆ノ型 昇上砂塵嵐 』
頸を斬り落とし、少年のもとへと駆け寄った。
私はそんなアイツの姿を目にしながら、
『(あの怪我で…あの威力の技を出せるなんて…、やはりアイツは凄いな…。)』
そんな思いを抱きながら、アイツのもとへと向かい
『もうすぐ隠が来る筈だ。それまで…その少年を保護___』
そう言いかけた時だった。
『…ッ…、…___』
突如、アイツがその場へ倒れ込み
目の前の少年は、血の付着した刃物を手に持っていて
『………は、?』
理解が追いつかず、思わずそんな声が漏れてしまう。
すると、少年は震える手で刃物を持ちながら、こちらに鋭い視線を向けて
『何で…なんで、母さんを殺した…お前らは、人殺しだ…!母さんを返せ…っ…!!』
頸を斬り落とした鬼へと目を向けると、醜い姿ではありながらも…その鬼は女性の着物を身に纏っていた。
少年はその母親を鬼だと認識し、先程まで助けを求めていたのにも関わらず
今は酷く動揺した様子で、母親を殺された事に憤り、こちらに刃物を向けていた。
私はそんな少年を目にし、呟くようにして口を開く。
『…随分と…勝手すぎないか…、』
君が助けを求めていたから…アイツは、剣を振るった。
それなのに…鬼となった母親が殺された事を知ると、怒りに任せアイツを刺した。
目の前の少年からは、悲しみと怒りと…憎悪の音が鳴り響き
命を助けたアイツに対する、感謝の音などは全くなく
つくづく人間は…残酷で、非道な生き物だと再認識した。
そんな奴等を助けて何の意味がある、何の価値がある。
……もう、殺してよくないか。
86人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:雫 | 作成日時:2023年7月19日 18時