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私は彼女の歪な音には気付いていた。



気付いた上で、その手を取り



あの男に一生囚われるよりは…彼女に殺される方がマシだと、そう思った。



そう思ったのも束の間、…辺りに銃声が鳴り響いたかと思うと



首を絞めていた女中の力は緩むと同時に、彼女は血を流してその場に倒れ込んだ。



顔を上げると、そこにはあの男がいて



『美琴、怖かっただろう…もう大丈夫、さあ一緒に戻ろうか。』



そう言って、手を差し出すあの男からは



相変わらず…人とは思えない、残酷な音がしたが



私はもう何も考える事なく、あの男の手を取った。



…決して、従順になった訳ではない。



私はあの日、人間に…音に、深く失望したと同時に



憎悪から移り変わる、ある音の存在に気づき始めていた。















そして、あの男と契りを交わす日の前夜。



襖の隙間から漏れる…淡い月の光を眺めながら



私は、ふと思った。



『(此処にいる奴等…全員、殺そう。)』



あの男をはじめとする、耳障りな人間を全て殺せば



私は自由の身になる事ができ、あの惨い音も聞かなくて済む。



屋敷から包丁を盗み出し、あの男の自室へと向かい



静かに眠る奴の喉元に、刃を突き立てようとしたその時



寸前の所で手を止め、ある違和感に気がつく。



『(息を…していない…。)』



あの男は私が手を下す前に…既に死んでいた。



布団を捲ると、あの男の身体には無数の傷跡があり



それはただの刺し傷ではなく、何か…獣のようなものに引き裂かれたような___



そんな事を思っていると、突如屋敷の中から悲鳴が聞こえ



声のした方へと向かうと、辺りは既に血の海で



そこに立っていたのは、醜く…忌々しい鬼の姿。



鬼は鋭い眼光で私を捉え、妖しい笑みを浮かべながら



『今日は…いい夜だなァ、次々とご馳走が出てきやがる…』















本当に、今日は…いい夜だ。



私を苦しめたあの男は死んだ。親族も女中も、皆死んだ。



けれど、私の気持ちはどうしても晴れなくて



鬼を目の前にし、死が迫っているからだろうか。



醜い鬼の姿とその音に、恐怖を感じているからだろうか。



いや…そんな感情は微塵も抱いていない。



私が今、感じているのは



『(私が…コイツら、殺す筈だったのに…。)』



鬼より先に手を下せなかった後悔と、



『(まァいい…嫌な音がする奴は、全て殺そう。__)』



積もりに積もった、高鳴る殺意の音だった。

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作者名: | 作成日時:2023年7月19日 18時

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