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それからその音は、次第にはっきりとしたものになっていき
『さっき話していた人は誰?随分と、親そうだったけど…俺と話すよりも楽しそうだったね。』
『この着物、君に似合うと思うんだ。あと…新しい簪も、君に送るよ。君には…俺のものだけ、つけて欲しいからね。』
『お疲れ様。君の仕事が終わるまで、外で待ってたんだ。送るよ、一緒に帰ろう。』
かつて、純粋であった筈の彼の好意は
次第に強い嫉妬と独占欲…歪んだ愛にまみれ、
私は彼から高鳴るその音が、怖くて仕方がなかった。
彼は私自身に迫るだけじゃ飽き足らず、
私に近寄る男性に対しては、明確な敵意の音を示し
よく私に声を掛けていたお客さんは、突然店に来なくなり
終いには…不慮の事故で亡くなったという話を聞いた。
その話を聞き、背筋が凍ると同時に…彼の仕業であると確信し
自分の身は勿論の事、此処にいる人たちの身が危ういと思い…私は逃げるようにして店を辞めた。
けれど、彼はその後も私を追い続け
ある日、突然私の家を訪ねてきたかと思うと、目の前に多額の現金を積み上げ
このお金と引き換えに私を婚約者として迎えたいと、そう言ってきた。
幸い、私の両親はお金に靡くような人ではなく
彼を追い払い、その後は私の話を聞いてくれた。
そして、居場所が彼に知られてしまった事もあり
『また彼がいつやって来るか分からない…美琴の為にも、今すぐ此処を出よう。』
『美琴、心配しないで。あなたの事は…母さんと父さんが絶対に護るから。』
両親からは私を心から想う、温かい音がして
私はそんな両親とその土地を離れ、彼の足が届かないように…遠く離れた土地へと移った。
それから、私はその場所で新しい勤め先を見つけ、
また、大好きな両親と…平穏な生活を送る事が出来ると思った矢先、
『 美琴、迎えに来たよ。 』
そう告げる彼の背後には、燃え盛る私の家。
『君のご両親にも…改めて挨拶をしたんだけど、なかなか分かってもらえなくてね。だから…もう、いいかなって。』
『そんな顔、しなくても大丈夫だよ。君は一人じゃない…これからは俺が側にいる。一緒に行こうか、___』
そう言って、笑顔で手を差し出す彼からは
人とは思えないような、残忍で…狡猾な音がして
その場に立ち尽くす私からは、深い悲しみと…絶望と
腹の底からふつふつと湧き上がる、憎悪の音がした。
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作者名:雫 | 作成日時:2023年7月19日 18時