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ある日、私が働いていた茶屋に、私より三つほど歳上の青年が訪れた。



その青年は私を一目見るなり『綺麗だ』と言って、微笑んでくれた。



そんな彼からは、純粋な好意の音がして…人から好意を向けられる事は…ただ単純に嬉しかった。



それから、彼は足しげに店へと通うようになり



『美琴、例の彼またお店に来てるよ!あれは絶対…美琴に気あるでしょ。さっきも美琴の事、目で追ってたし…』



『彼、此処らで有名な資産家の息子なんでしょ?加えて容姿端麗…そんな彼に好かれるなんて、美琴羨ましすぎ!』



同じ店で働く子達にそう言われ、彼との交際を進められはしたが、



当時の私はそう言った事に興味がなく、彼の事は特に気に留めず、いつも通り店の手伝いを行っていた。



店の子達が言っていたように…彼は、私に対して特別な感情を抱いていたようで、



『この簪…君に似合うと思って、買ったんだ。良ければ、貰って欲しいんだけど……迷惑じゃないかな…?』



少し照れくさそうな表情で、微笑む彼からは…初恋を思わせるかのような、甘酸っぱい音がした。



その後も彼は店へと通い続け、彼から響く好意の音は次第に高鳴りを増していった。



ある日、店の手伝いが終わった後、彼に呼び出され



『結婚を前提に、俺と付き合ってほしい。』



真っ直ぐな瞳と…音を私に向けて、彼はそう告げた。



彼の事は嫌いではなかったものの…そういった対象として、意識をした事もなく



私は頭を下げ、その告白を丁寧に断った。



彼は私の返事を受け、少し残念そうな音を出してはいたものの、



『そっか…、急にこんな事言ってごめんね。聞いてくれてありがとう。』



『お店の方には…また行きたいと思ってるんだけど…、いいかな?勿論、君が嫌じゃなければだけど…。』



彼は断られてもなお、終始私を気遣っている様子で



改めて『いい人』だなと実感すると同時に、私はそんな彼から鳴り響く音も好きだった。



















彼の『音』も、好きだった…筈なのに



そんな彼が変わってしまったのは、あの日から数日後。



いつも通り店で注文を取り、お客さんと他愛もない話をしていると



背後から今まで感じた事のなかった、異様な音がした。



振り返ると、そこには彼が立っていて



『___随分と…楽しそうだね。』



にこやかな笑みを浮かべながらも、彼から鳴り響く音は



歪な愛と欲を、僅かに感じさせるような…そんな音がした。

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作者名: | 作成日時:2023年7月19日 18時

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