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(西條 side)
「(…ッ…、…)」
ズキズキと脈打つような怪我の痛みに耐え、地面へと刀を突き刺しながら
ダラダラと血が滴る足を引き摺り、入り組んだ森の奥深くへと進む。
木々を背に、身を潜めるようにしてその場に座り込み
右肩から腕にかけて負った怪我と、足の怪我を眺めながら
「(判断を…誤った。…____)」
静かにため息をつき、思わず視線を落とす。
『上弦』と『下弦』二体の鬼に追い詰められたあの後
咄嗟に刀を構え、呼吸技を出したものの
肺の空気は残っておらず、技の威力は格段に落ち
全ての攻撃を受け流し、交わす…だなんて事は出来る筈もなかった。
その後は…何とか奴等の隙をつき、その場を離れる事が出来たものの
「(見つかるのも…時間の問題だろうな…。____)」
私は…あの『下弦』の鬼を斬ったつもりでいたが、
背後に現れた『上弦』の鬼に気を取られ、頸を斬り落とす直前で、その刃を抜いてしまった。
その後は…目の前の『上弦』の鬼にだけ、集中していた事もあり
すぐ背後まで、あの雷の血鬼術が迫っていた事には…全く気づいていなかった。
『下弦』の鬼に一瞬目を向けた矢先、扇を持つ鬼に突き刺した刃は…いつの間にか抜かれ、
「(あの時…『上弦』の鬼の頸だけは…即座に跳ねておくべきだった……。)」
長年、柱を務めているというのに…自分のこの未熟さには、呆れてしまう。
それと同時に…もし、耳が聴こえていたら
背後から迫り来る『下弦』の鬼の存在に、気付く事が出来た筈だ。
そんな後悔を抱え、怪我の痛みに耐える中であっても
相変わらず…私の頭の中には、あの事しかなくて
「(煙草…吸いたな…、____)」
懐から箱を取り出し、残り一本となってしまった煙草に静かに視線を落とす。
「(本来であれば…早く戻って…煙草を買いに行って…、…あとは……そうだ…、)」
「(実弥に渡す…おはぎを買って……あの日の詫びを…入れに行こうと、思ってたんだがな……)」
「(どうやら…それは少し、難しいようだ…。)」
そんな事を思いながら、手に取った煙草の箱を、一旦地面へと置き
「(とりあえず…止血、しておくか……)」
着ていた羽織を刀で破き、直ちに止血を行った。
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作者名:雫 | 作成日時:2023年7月19日 18時