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不死川が呆れた視線を向ける中、西條は口を開いて
『それに、あれだろ。継子なんて取ったら…君に構う時間が減る。一緒におはぎ、食べに行けなくなるかもな。』
そんな西條の言葉に、不死川の身体がピクリと反応したかと思うと
不死川は少しの沈黙の後、静かに口を開いて
『…継子…取るのは…、考え直せェ…。』
西條はそんな不死川に対し、ふっと笑みをこぼしながら
『継子を取る気はないが、仮に…取ったとしても、実弥との時間はちゃんとつくるよ。』
『私は…何気に、実弥と過ごすあの時間が好きだ。甘いものは苦手だが…君が全部食べてくれるしな。それに…君が嬉しそうだと、私も嬉しい。』
『だから今度また、予定が合えば____』
西條がそこまで言いかけた時だった。
先程までは聞こえなかった音が西條の耳へと届き、
その音は次第に高鳴りを増し、西條の言葉を覆い隠す。
そして…いつの間にか西條から視線を外し、俯いていた不死川は
『俺も…好き、だァ…お前と過ごす…時間がよォ……』
辿々しい口調でそう告げた後、本音を飲み込むかのようにして、口を噤む。
西條はそんな不死川に、一瞬目を向けた後
ふたたび視線を煙草の煙へと戻し、
『そうか、それは良かった。』
とだけ返し、その後は他愛もない話を振り続けた。
不死川は西條と会話をしながらも、内心気が気ではない様子で
『(コイツも…俺といる時間、大事に思ってくれてたンだなァ…。)』
そこに深い意味がない事は…分かっていながらも、
西條の何気ない言葉に、しばらく鼓動を高鳴らせていた。
一方、西條は何事もなかったかのような様子ではありながらも
『(そんな音を出されると…、さすがに…こっちも…恥ずかしくなってくるんだが…。)』
『(時間が経てば…薄れると、思ったんだけどな。___)』
不死川の好意を持て余し、やや頭を悩ませている様子だった。
その後、西條は任務へと向かう前に
何か思い出したかのようにして、不死川の方へと視線を向ける。
『そういえば、その箱…もう空だから。捨てといてくれ。』
先程、不死川に奪い取られた煙草の箱を指差した後
懐から別の箱を取り出し、ふたたび煙草を口へと咥える。
『一日一箱にしろって、言ってるだろうがァ…』
『まァ…許せ。今度、おはぎ奢るからさ___』
不死川の注意と呆れた視線を受け流し、
煙を纏いながら、任務へと向かっていった。
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作者名:雫 | 作成日時:2023年7月19日 18時