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その後、蝶屋敷を去り、自身の屋敷へと向かう途中
「(そういえば…西條、あの日____)」
西條の事について、一つ思い出した事があった。
特に気に留める事ではないと思っていたが…あの日、西條は珍しく煙草を切らしていて
周囲の鬼の頸を切った後、俺に対して
『…なァ、実弥。今、煙草…持ってたり___』
『持ってる訳ねェだろォ……お前、どんだけ煙草好きなんだァ…?いい加減辞めろォ、』
注意を促すようにしてそう告げるが、アイツは少しの沈黙の後
『そう簡単に…辞めれるものじゃない。悪いな、__』
そう言って、刀を握りながら奥へと進んでいった。
その後、西條は終始煙草を求めるかのようにして『あー…』とぼやいており、
『(中毒になってんなァ…、ったく…)』
俺はそんな西條に対して、ただ呆れた視線を向けていた。
「(こんな話…胡蝶にしても、アイツも呆れるだけだろうなァ…、)」
そんな事を思いながら歩いていると、
道中、木に寄り掛かりながら寝ている…西條の姿が目に入る。
「(こんな所で寝るかァ、普通…風邪引いたらどうすんだァ……ったくよォ…___)」
そんな事を思いながら西條の側へと寄り、先程まで着ていた自分の羽織を掛け、
寝ている西條の隣に腰を下ろし、視線を向ける。
……長い睫毛に…透明感のある白肌、
紅く…色付いた、艶っぽい唇____
ふと、そんな所に目を向けてしまう…自分にハッとして
「(クソ…落ち着かねェ…、…。)」
西條から視線を外した後、一旦その場に立ち上がり、
木を挟んだ反対側へと移動し、ふたたび腰を下ろす。
俺は…西條に対して、淡い…特別な感情を抱いている。
それを自覚してから、もう三年近く月日は経つが
俺はその想いを告げるつもりもなければ、…西條と今以上の関係になることを…望んでいる訳でもない。
けれど、時折…その想いが溢れてしまいそうになって
その度に、耳のいい西條は…俺の想いを、おそらく察してはいるものの
受け入れるつもりも無ければ…拒むつもりもなく、
ただただ煙草をふかしながら、他愛もない話を持ちかける。
それが…きっと、西條なりの優しさで
正直、助かっては…いる。
けれど、俺はこの想いをずっと捨てきる事が出来なくて
「(本当…やってらんねェ…、___)」
静かに視線を下へと落とし、
辺りに吹く穏やかな風を感じながら、ゆっくりと目を閉じた。
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作者名:雫 | 作成日時:2023年7月19日 18時