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「_____…、……」
長い夢から覚め、重たい瞼をゆっくりと持ち上げる。
辺りは日が暮れ始め、涼しい風が吹く夕暮れ時だった。
「(結構寝たな…、相当疲れが溜まってるようだ…。)」
そんな事を思いながら、ふと視線を下へと落とすと
そこには『殺』と刻まれた羽織が、私の身体を覆うようにして掛けられており、
「(これは…実弥の…、…)」
辺りを見渡すと、実弥は私が寄りかかっていた木の反対側に座り込んでいて、
微かに頭を揺らしながら、うたた寝をしている様子だった。
私は抱えていた羽織を、彼の身体へと掛けて
「(君は…本当に、優しい奴だな…。)」
彼の優しさを改めて実感し、口元から思わず笑みを溢す。そして、そんな彼の顔へと目を向けて、
「(また…新しい傷が増えてる…、実弥はよく無茶するからな…。)」
頬に出来た傷にそっと触れ、軽く撫でる。
それと同時に、何となくアイツの顔が頭によぎり
「(少しだけ…、似てるんだよな…。)」
…実弥は何処となくアイツに似た雰囲気があって、
共に任務をこなす中で、度々彼にアイツの面影を重ねてしまう自分がいた。
「(実弥は…私より先に、死ぬなよ。___)」
そんな思いを抱きながら、彼の頬を優しく撫でた後
背を向けて、そのまま静かに立ち去ろうとすると
「…!」
不意に手を掴まれ、振り返ると同時に視線を下へと落とす。
実弥は…振り解こうと思えば、すぐ振り解けるような力で、私を引き留めながらも
決して視線は逸らさず、私からの言葉を…待っているように見えた。
「(実弥…、悪いな…___)」
今の私には、何も聞こえない。
音が聞こえないと…私は君が何を求めてるか、察することも出来ないほど疎い。
「……、…____」
私は彼に何も告げる事なく、その手を振り解き
少しの罪悪感を抱えながらも、彼に背を向け、その場から立ち去った。
その後、咥えた煙草に火をつけながら、
「(そういえば…実弥は、どんな音だったけ…。)」
耳が聴こえなくなってから、既に数ヶ月の月日が経ち
私は身近にいた、彼の音でさえも思い出せなくなっていた。
「(歳取ると…忘れっぽくなってダメだな、__)」
日が落ちる道中、アイツが好きだった煙草をふかし
指令の紙を咥えた鎹鴉を肩へと乗せながら、そのまま次の任務へと向かった。
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作者名:雫 | 作成日時:2023年7月19日 18時