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その後も、アイツは自ら表立って剣を振るう事はなかったものの、
『(ッ…、今日は…一段と音が____)』
私が少しでも顔を歪めると、アイツはその変化に気づき
緑色に光る日輪刀を鞘から抜いて、
『 西條 』
私の名を呼び、好戦的な笑みを浮かべた後
『 お前は…俺の音だけ聞いとけ、…いいなァ。___ 』
『 風の呼吸、肆ノ型…昇上砂塵嵐 』
鋭い眼光を向けながら、鬼のもとへと斬り込んでいく。
私は…今まで、様々な人間の音を聞いてきてはいたが、
アイツから高鳴る音は…周囲の雑音を全て掻き消す程の、凄まじい重圧で
荒々しくも…揺るぎない信念を感じさせるような、その音に圧倒され…強く惹かれると同時に、
『 雷の呼吸、参ノ型…聚蚊成雷___ 』
私は…アイツが居てくれたから、音に囚われず…剣を振り続ける事が出来た。
____任務が終わり、帰路へと着く道中
私は煙草の煙を纏いながら、先を歩くアイツに
『…ありがとう、颯斗。また君に、助けられた。』
そう声を掛けると、アイツは立ち止まって、こちらへと視線を向け、
『礼なんて、言われる筋合いねぇよ。…それよりお前、何気安く名前で呼んで___』
私はそんなアイツの言葉を遮るようにして、微笑を浮かべながら
『君は…本当は、苗字で呼ばれるの好きじゃないだろ。私なりに、気を遣ったつもりだったんだがな。』
アイツは…自分が『神代家』の一族である事を酷く憎み、恨んでいた。
共に任務をする中で、本家の愚痴をよく溢すと同時に
『神代』と名を呼ぶ度に、少し寂しそうな目をして、視線を落としていた。
『まァ…嫌なら、苗字に戻す。嫌でないのであれば…名前で呼んでも、問題ないだろ。』
『………、』
アイツは少しの沈黙の後、煙草の煙を吐き出しながら、背を向けて歩き出し
私の言葉に対して、特に返答はしなかったものの
『…今から飯行くぞ、美琴。金はお前持ちな、』
『この前も…奢ったろ。たまには君が奢ってくれ、…人の金で食べる飯は美味いからな。』
そう言うと、アイツは軽く笑いながら
『は…ッ、間違いねぇなァ……分かった、今日は俺が奢ってやる。その代わり、次はお前が高い飯奢れ。』
『何でそうなる…、まァ…覚えてたらな。次は奢るよ、___』
そう言った後、何処か機嫌の良さそうなアイツのもとへと向かい
穏やかな風が吹き抜ける中、肩を並べて歩き、その場を後にした。
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作者名:雫 | 作成日時:2023年7月19日 18時