春雷に散る花【不死川実弥】 (ページ15)

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(西條 side)

某日、いつものように任務をこなし、屋敷へと向かうが

「(あー…二徹…きついな、…___)」

眩い日差しの中、屋敷まで歩く体力は殆ど残っておらず

重たい身体を引き摺り、辺りの木陰へと座り込む。

煙草をふかしながら、外の景色を眺めていると

少し離れた所にいる、騒がしい様子の三人組が目に入り

「(善逸と…、確か…炭治郎と伊之助…だったか？)」

「(これから任務か…、仲良いなアイツら。)」

そんな事を思いながら、ふーっと煙草の煙を吐き出す。

その後も、任務を終えた隊士たちや、道端で話し込む柱の姿

買い出しの帰りと思われる蝶屋敷の住人、業務に追われる隠の姿が次々と目に入る。

……皆、その隣には誰かがいて

笑ったり、怒ったり…泣いたり、驚いたり

様々な表情を浮かべ、会話を楽しんでいる様子で

「(皆…何、話してるんだろうな…。)」

ふと、そんな事を思うと同時に

先日、善逸に掛けられた言葉をふたたび思い出し、

「(私は…寂しいのか…？)」

自分自身にそう問いかけてみるが、結局答えは分からない。

耳が聴こえなくなってからは、任務以外で人と関わる事が減り、

以前は、頻繁に誰かを飲みに誘っていたが…それも次第に減っていった。

元々、一人でいる事は嫌いではないし、むしろ気楽でいいとも思ってしまう部分もあって

寂しいと実感する事は、全くと言っていい程なかった。

…ただ、善逸の言葉が何となく、頭の片隅に引っ掛かり

「(優しい音…か。まァ…確かに、此処にはいい音を出す奴が多い……聞いていて、心地いい。)」

善逸の言っている事は…勿論、分かる。

けれど…私には、どうしても耳を塞ぎたくなってしまう事が度々あって、

「(このままずっと…聴こえないままでも、___)」

そんな事を思い掛けた時だった。

辺りに吹き荒れた穏やかな風が、私の頬を撫でたかと思うと

『何しけた面してんだよ、美琴。』

懐かしいアイツの声が、頭の奥に響く。

私は思わず咥えていた煙草を口元から離し、視線を落として

「(なァ、『颯斗(ﾊﾔﾄ) 』…私は…まだ、私でいられているか…。)」

「(音に呑まれてしまう前に…早く、君のもとに逝きたいんだがな…、___)」

亡き戦友に、届かない思いを告げた後

心地よい風を肌で感じながら、私は静かに瞼を閉じた。