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しばらくして、廊下から騒がしい足跡が聞こえてきたかと思うと、
「___……父さん…!」
襖が勢いよく開くと同時に、星宮の声が部屋の中へと響き渡る。
星宮は一瞬、側にいた不死川の方へと目を向けたが
すぐに男のもとへと駆け寄り、動揺した様子で
「…父さん…、何で…いつから…、どうして…言ってくれなかったの……」
痩せ細った男の手を握り、目を潤ませながら、そう問いかける。
男はそんな星宮を目にしながらも、表情一つ変えず、冷静な口調で
「…勘当したお前に、伝える必要などないだろう。それと…あの日、星宮の門を二度とくぐるなと言った筈だが、」
突き放すようにしてそう告げる男を目にし、不死川は内心
「(…ったく…この後に及んで、まだそんな事言いやがるのかァ…?不器用にも程が、____)」
苛立ちながら、そんな事を思いかけた時だった。
星宮が少しの沈黙の後、静かに口を開いて
「縁を切った父さんにとっては…もう私は、娘でも何でも…無いかもしれないけど…、…でも…それでも、__」
「……私にとっては…ずっと、父さんである事に変わりないし…たった一人の大事な家族だと、そう思ってる…。だから…、心配くらい…させて…欲しい、…___」
星宮は目に涙を浮かべ、声を震わせながら、男にそう告げる。
男はそんな星宮を目にし、一瞬目を見開いたかと思えば、視線を下へと落として
「………散々辛い思いをさせてもなお…お前は私を父親だと…家族だと、思ってくれているとはな…。」
そう呟いた後、ふたたび星宮のもとへ視線を戻し、
「一華、…今まで本当に…すまなかった。」
「…私にとっても…お前はたった一人の大事な娘であり…、大事な家族だ。____」
そう告げる男の様子は、今までとは打って変わり
その声や表情には、何処か温かみが感じられると同時に、
男は星宮の顔にそっと触れ、涙を拭い取りながら
「……一華、泣くな。お前の泣き顔は体に悪い、…余計に悪化する。」
「…あ…、…父さ…ん…。ごめ…、…____」
星宮は今にも溢れ出しそうな涙を、堰き止めようとはしたものの
大きい雨粒が次々と零れ、流れ落ちてゆくばかりだった。
男はそんな星宮の側に寄り添い、優しい眼差しを向ける中
「………、…____」
不死川はそんな二人の様子を目にした後、静かにその場を立ち去り
何事もなかったかのようにして、一人自身の屋敷へと戻っていった。
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作者名:雫 | 作成日時:2023年6月25日 9時