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(星宮 side)
梅雨の季節が過ぎ、眩しい日差しが降り注ぐ中
母さんによく似合いそうな桔梗の花を抱え、墓の前へと訪れる。
「___…母さん、久しぶり…ずっと来れてなくて、ごめん…。」
最後にこの場所を訪れたのは、母さんが死んだ日の翌年。
十二歳の時に母さんを亡くしてから、約四年もの月日が流れ、今年で私は十六歳を迎えた。
「本当は…毎年、会いに来たかったけど…色々あってさ…、…」
会いに行けてなかった、一番の理由は…天国にいる母さんに心配をかけたくなかった…ただそれだけに尽きる。
母さんを目の前にすると、弱音を吐いて、泣き出してしまいそうだった。…特に、父さんから稽古を受けていた三年間は。
「母さんが死んでから…辛い事も…たくさんあった…けど、ここ数年は楽しい事や嬉しい事もたくさんあった…。…聞いてくれる…?母さん、____」
それからは、母さんに向けて、鬼殺隊に入ってからの話をした。
その話の殆どにアイツの名が上がり、改めて自分の中でアイツの存在がどれ程大きいかを実感した。
一通り話し終えた後で、最後に一番伝えたかった事を母さんに告げる。
「母さん。私は…もうすぐ、柱になる。…父さんみたいな『星柱』にはなれなかったけど…でも、いいんだ。」
「家柄に囚われず…私は、私の生きたいように生きる。そう決めた、…だから…せめて、母さんだけでも…それを受け入れて、見守ってくれたら…嬉しい。」
「長々と話してごめん、…そろそろ行くね。___」
そう告げると同時に、桔梗の花だけが供えられた墓を目にして
「(…やっぱり…父さんは、母さんの墓参りには来ないんだな…。)」
…私の記憶では、父さんと母さんは仲がいい方だと思っていたけれど
母さんが…鬼に襲われて、死んだあの日。
『お前の母親は、弱いから死んだ。』
『母親の様な死に方をしたく無ければ…強くなる事だ、いいな。』
死んだ母さんを目の前にし、父さんは表情一つ変える事なく、淡々とした口調でそう告げた。
「(父さんは…母さんの事を愛してなかったんだろうか…。)」
そんな事を思いながら、星宮の家がある方向を少しの間、見つめた後
「(……勘当された事、母さんに言えなかったな、…__)」
沈む気持ちとは対照的な、まばゆい夏の陽光に煩わしさを感じながらも
実家がある方向へと背を向け、振り返る事なく、その場を後にした。
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作者名:雫 | 作成日時:2023年6月25日 9時