導き ページ8
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(黒羽 side)
「___カナヲ、紫何処に行ったか知らない?」
「ううん、見てないけど…。紫がどうかしたの…?」
「さっき紫に買い出し行ってもらったんだけど、紫ったら…頼んだもの何一つ買ってこなくって…」
「見て、これ…お菓子ばっかり。本当にもう…!」
「(あ…ラムネ入ってる…。)」
廊下から、そんな二人の会話が聞こえる中
「(お菓子買ったくらいで怒るだなんて…、アオイは糖分足りてないんだろうな…。)」
とある一室の押し入れへと身を潜め、先程買った飴玉を口へと含む。
数分前、買い出しを終えアオイのもとへと戻った際
『紫…何これ、?何でお菓子ばっかり…』
『ちゃんと買い出しのメモ渡したでしょう…!何で違うもの買ってくるの!』
何やらピリピリしたアオイに怒られてしまい、
『(これは…長引きそうな予感、)』
瞬時にそれを悟り、その場を後にし
押し入れに身を潜め、アオイの怒りが鎮まるのをただただ待っている。
その後、部屋の前にいた二人は何処かへと去り
「(そろそろ…出てもいいか、)」
襖に手を掛け、押し入れから出ようとするものの
「(あれ…開かない…。壊れた……?)」
何故か襖は堅く閉ざされ、私の力ではどうする事も出来ず
「(…まァいいや、)」
「(とりあえず…寝よ…。___)」
一旦脱出は諦め、真横に積まれた布団へと寄り掛かる。
___私は暇さえあれば、押し入れの中で仮眠を取っており
薄暗く静かなこの場所は、自然と気持ちを落ち着かせる。
それと同時に、この場所にいると
『___紫、また此処にいたのか。出ておいで、』
笑顔と共に手を差し伸べてくれた…彼の事を思い出し
此処にいれば、また彼が見つけに来てくれるような気がして
「(…未練がましい…、)」
そんなありもしない事を期待してしまう自分に、何度呆れ返った事か。
想いを寄せていた彼は、四年前…戦場で命を落とした。
大好きだったあの笑顔は、もう二度と見る事が出来なかったというのに
彼が死んだあの日、私は一滴たりとも涙を流す事はなく
「(どうして…自分より、アイツなんかを優先したんだか…。___)」
ふとそんな事を思いながら、私はゆっくり瞼を閉じた。
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作者名:雫 | 作成日時:2023年11月29日 0時