獅子の子落とし 2

しとしと ページ1

ほんの出来心だった。


｢こほっ、はぁっ｣


｢37.9。先生に電話するからちょっとまっててね。｣


雨がしとしとと降る中、体調を崩して横になってる涼介。


和也は受話器片手に部屋から出ていく。


｢はぁ、やったぁ〜っけほっ｣


このジメジメした季節に行う体力テストのシャトルランが大嫌いな涼介。


シャトルランという言葉を聞いただけでも吐き気がするし、｢5秒前っ｣という女性の声を聞いただけでも頭がクラクラするほど大嫌いなのだ。


なので、昨日の下校は傘をささずにゆっくりと歩いて帰ってきた。


びしょ濡れのまま兄たちが帰ってくる時間まで着替えずにいた涼介。


そうしたら翌朝熱が出ていて、喉も痛むようになった。


身体は辛いものの、心はとってもハッピー。


｢涼ちゃん、先生がお大事にだって〜｣


電話し終えて戻ってきた和也。


ハンバーグみたいに丸くてあたたかい手で涼介の頭を撫でる。


涼介はこんなに優しくしてくれる和也に少し申し訳なくなる。





｢りんご｣


｢ごま｣


｢まらかす｣


｢すくらっち｣


会社に病気の子供を預かる施設がある。


和也はそこに涼介を預けようと、車に彼を乗せ、不安を感じさせないようしりとりでもしながら出社する。


｢38.0ですね。涼介くん、一緒にお布団行こうか！｣


色々と手続きを終え、自己紹介が終わると、女性のスタッフに連れられていく涼介。


和也も涼介も無言で手を振り、別れる。





｢はぁっ。｣


涼介を無事預けられて安心した和也。


ため息をひとつつくと、気持ちを入れ替えてデスクに向かう。


しとしとと降る雨の中痛む頭。


気圧のせいもあるけど、なにより涼介が心配で頭痛がする。


お昼に顔を出す時に元気になっててくれるといいんだけど。


と絶対的に無理な願望を抱いている和也。


｢切り替え切り替え。｣


心の中でそう自分に言い聞かせ、水分補給をしてから作業に戻る和也。


｢あぁ！昼休みだァ！｣


オフィスに響く先輩の声を合図に周りが動き出す。

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