08.期待 ページ10
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自分の中で、ガラガラと音を立てて何かが崩れていく気がした。
それが矜持だとかそんな立派なものではないのは確かだけれど、とにかく頭の中で警鐘がガンガンと鳴っていた。
指先が、ひどく冷たい。
『あ、あのね場地、これは「Aすげーじゃん」』
とにかく、なにか弁解を。
そう思って発した言葉は予想外の言葉によって遮られた。
『……は?』
目を丸くして言われた言葉を頭の中で反復する私に対し、場地は目をキラキラさせて笑っていた。
「角曲がったら知ってる顔が男はっ倒してんのビビったわ。あんなキレーに回し蹴り入んの初めて見た、身体柔らけぇのな」
堂々とした物言いと嬉々とした表情からは、怯えとか軽蔑の類のものなんて1ミリも含まれてなくて、ただただ賛辞の意であることが伺えるのみ。
『何でそんな平然としてんの…?』
「ハァ?なに、怖がって欲しかったン?」
『そういうわけじゃない、けど…。普通何があったとか、聞くでしょ』
「一方的に絡まれたとかじゃねーの?」
『いやそうだけど…』
この状況で、そう言い切ってくれるんだ。
脳裏によぎるのは、引き攣った表情と、好奇の視線なのに───
「A、こっち帰り道?」
『えっ、あ…うん。そこのコンビニ真っ直ぐ行って、右曲がればすぐ家』
「まじ?俺も方向同じだワ」
人が物思いにふけている間にも「なら一緒に帰ろーぜ」、なんて呑気に歩き出す場地に反論する気は、もう起きない。
『場地ってほんとアホだよね』
「あン!?ケンカ売ってんの?」
『売ってない、褒めてんの。……クラスメイトの女が年上の男はっ倒してたらドン引くでしょ普通』
「そーか?強ぇ奴近くにいんの、スゲー楽しーじゃん」
『おまえは悟空かよ』
キレられるかな、と思ったそのツッコミはどうやら場地の逆鱗ではなくツボに触れたらしい。場地はケラケラとその場で腹を抱えて笑い出した。
別に笑ってる顔を見たことないわけじゃないけど、こんなにも無邪気で楽しそうな場地は初めて見た。
だからなのかはよくわからないけれど、なんだか心臓がギュッてなるような感じがした。
この感情に、まだ名前なんてないけれど。
ただ、ありのままの私を受け入れてくれるんじゃないかなって、そんな期待を場地にしてしまっていることは、紛れもない事実だ。……もう、指先は温度を取り戻している。
『私、コンビニ寄ってアイス買って帰りたい』
今日は久々にいい夢が見れそうな気がする。
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玲 - おもろい✨続き楽しみにしてるます! (3月29日 19時) (レス) @page16 id: ed098355db (このIDを非表示/違反報告)
きなこもち(プロフ) - あさん» コメントありがとうございます、励みになります!ぼちぼちの更新になりますが頑張りますのでよろしくお願いしますm(_ _)m (2023年3月16日 21時) (レス) @page15 id: 869b2e483e (このIDを非表示/違反報告)
あ(プロフ) - 面白いです!更新頑張ってください😆 (2023年3月16日 8時) (レス) id: ca28bfbf34 (このIDを非表示/違反報告)
きなこもち(プロフ) - 甲賀忍者さん» 甲賀忍者さん、嬉しいお言葉ありがとうございます!更新スローペースですが気長にお待ちいただけたら嬉しいですm(__)m (2022年8月29日 1時) (レス) id: 869b2e483e (このIDを非表示/違反報告)
甲賀忍者(プロフ) - 面白いです!留年コンビいいですね!応援させて下さい! (2022年8月27日 14時) (レス) @page8 id: 75f75dc2eb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きなこもち | 作成日時:2022年7月14日 16時