04.興味 ページ6
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さすがに入学式初日から授業なんてするわけもなく、体育館から教室に来た後は担任からの簡単な挨拶と明日以降の動きの説明のみで下校となった。
次々とクラスメイトが教室から去っていく中で、チラリと隣に視線をやれば、場地君は今朝と寸分違わぬ姿で机に向かっていた。
担任が話をしている時もずっとその手は忙しそうに動いていて、彼が明日以降の日程をどれだけ把握しているのか謎だった。
私と場地君以外の全員がいなくなった教室は先程までの喧騒が嘘みたいにひたすらに静かで、サラサラとペンが紙の上を走る音だけが響いていた。
なんだかその止まることのない音を止めてみたくて。
『……それ、何書いてるの』
気づけば机の上に置かれ続けている原稿用紙を指差してそう問うていた。彼はやっと手を止めてこちらに顔を向ける。
その表情は眼鏡で遮られてよく見えないけれど、彼はしばらく一切の動作を止めた後に恥ずかしそうに、小さな声で「…て、手紙」と答えた。
なるほど、手紙…。原稿用紙に、手紙か…。なるほどな……。
『…勝手に見てごめんだけど、そこ文おかしい』
余計なお世話かなと思いつつ間違いを指摘すれば「嘘!?」と彼は素っ頓狂な声を上げる。見かけによらず素直な反応が何だか面白くて、『ほら、ここ』と指を差す。
『その〈話〉って、動詞で使うなら〈す〉とか〈し〉とか送り仮名いるけど名詞で使うなら送り仮名いらないよ』
割と丁寧に説明したつもりだったのだが、どうやら彼の頭は私の説明を理解してくれなかったらしい。「お前何言ってんの?」と首を傾げられた。
『いや、だから……』
そうして〈話〉と〈話し〉の使い分けについて説明すること10分弱。ようやく意味を理解した場地圭介は「おぉー!」と歓喜の声を上げたかと思えば「ってことは最初から書き直しかよ!!ふざけんな!!」とキレてみたりと、感情のジェットコースター具合が凄まじい。
なんだか、すごい変な奴だなと思った。
だって、いかにも勉強できます!!みたいな格好してやる気も十分あるのに、見掛け倒しにも程があるってくらい頭は緩くて口は悪くて。褒め言葉にならない意味で、ギャップがえぐい。
「お前いい奴だな。ありがと、助かったワ」
だけど、ニコリと笑って礼を言う場地君は多分悪い人じゃないんだろうなって思った。
『…手紙、渡せるといいね』
数時間前の自分の発言を撤回しよう。
私は、この人と友達になりたい。
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玲 - おもろい✨続き楽しみにしてるます! (3月29日 19時) (レス) @page16 id: ed098355db (このIDを非表示/違反報告)
きなこもち(プロフ) - あさん» コメントありがとうございます、励みになります!ぼちぼちの更新になりますが頑張りますのでよろしくお願いしますm(_ _)m (2023年3月16日 21時) (レス) @page15 id: 869b2e483e (このIDを非表示/違反報告)
あ(プロフ) - 面白いです!更新頑張ってください😆 (2023年3月16日 8時) (レス) id: ca28bfbf34 (このIDを非表示/違反報告)
きなこもち(プロフ) - 甲賀忍者さん» 甲賀忍者さん、嬉しいお言葉ありがとうございます!更新スローペースですが気長にお待ちいただけたら嬉しいですm(__)m (2022年8月29日 1時) (レス) id: 869b2e483e (このIDを非表示/違反報告)
甲賀忍者(プロフ) - 面白いです!留年コンビいいですね!応援させて下さい! (2022年8月27日 14時) (レス) @page8 id: 75f75dc2eb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きなこもち | 作成日時:2022年7月14日 16時