19.和解 ページ21
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「お前、何でダブりなんかしてんの」
探るような目つきでそう問う松野千冬。
その視線は、以前彼の教室に教科書を借りに行った時に向けられたものと同じ類のものだ。
「普通、こんだけ点数取れてりゃ進級できんだろ」
何で?と首を傾げる彼は単純に気になったことを質問しただけ、という淡白さがあった。
なんかもっと、悪意があって皮肉混じりに聞いてくれればこっちも適当にあしらえるのに。
『……去年は全然学校来てなかったしテストも碌に受けてなかったから』
「うわ、問題児」
お前に言われたくない、と吐き出しそうになる言葉を何とか寸で止めて、『そうだね』と代わりに得意の愛想笑いを発動させる。
松野はほんの少しだけ不快そうに顔を顰めた。けれど、結局は何も言わずに「まあでも」と息を吐き出す。
「こんだけ頭良けりゃ学校なんて来たくねぇよな」
言い方自体はだいぶ雑。だけどやっぱりその言葉に嫌味っぽさはこれっぽっちもなくて、「俺ならダブらねぇ程度に学校きてテストも受けるけど」とストレートな物言いが清々しくて。
貼り付けた愛想笑いも、何だか馬鹿馬鹿しくなって毒気が抜かれて剥げていく。
思ってたより松野って割と話せる奴、なのかも。
『……まぁ、今回は留年しないようちゃんと計算してギリギリ攻めてくつもり。点数は取れるし』
「お前って一周回ってやっぱ馬鹿?」
『は?“やっぱ”って何?喧嘩売ってるなら買うぞクソガキ』
「口悪っ。つーか1個しか変わんねーよ」
『うるさいな…。ていうか普通に私よりアンタの方が問題児でしょ、入学早々センパイに呼ばれた上に異例の謹慎処分まで喰らったマツノクン」
「あー、あれな」
キレられるかな、と思いつつ発した言葉は案外華麗にスルーされた。やっぱり結構普通に大丈夫な奴だ、コイツ。
『…ごめん、今のはヤな奴すぎるから訂正』
「いーけど。お前、肝座ってんな。俺のこと怖くねぇの」
『いや、今更すぎるでしょ。まぁ、正直ちょっと怖かった…?けど今は全然。それに、松野は場地と同じで筋が通ったことしかしないと思うから、大丈夫』
そう答えれば、松野は「わかってんじゃん」と口角を上げてニカッと笑った。その様子を見て、場地が彼のことを気にかけている理由がほんの少しわかった気がした。
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玲 - おもろい✨続き楽しみにしてるます! (3月29日 19時) (レス) @page16 id: ed098355db (このIDを非表示/違反報告)
きなこもち(プロフ) - あさん» コメントありがとうございます、励みになります!ぼちぼちの更新になりますが頑張りますのでよろしくお願いしますm(_ _)m (2023年3月16日 21時) (レス) @page15 id: 869b2e483e (このIDを非表示/違反報告)
あ(プロフ) - 面白いです!更新頑張ってください😆 (2023年3月16日 8時) (レス) id: ca28bfbf34 (このIDを非表示/違反報告)
きなこもち(プロフ) - 甲賀忍者さん» 甲賀忍者さん、嬉しいお言葉ありがとうございます!更新スローペースですが気長にお待ちいただけたら嬉しいですm(__)m (2022年8月29日 1時) (レス) id: 869b2e483e (このIDを非表示/違反報告)
甲賀忍者(プロフ) - 面白いです!留年コンビいいですね!応援させて下さい! (2022年8月27日 14時) (レス) @page8 id: 75f75dc2eb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きなこもち | 作成日時:2022年7月14日 16時