15.遭遇 ページ17
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学校の帰り道。そういえば今日は好きな漫画の新刊発売日だなと思い出して、本屋に寄ったのが運の尽きだったのかも知れない。
ラスト1冊だけ置かれていた目当ての本に手を伸ばしたと同時に、自分以外の誰かも同じ本に手を伸ばしていたらしく、手と手がぶつかり合った。
ほんの少しだけ、胸が高鳴るような心地がしたけれど、ぶつかった相手が同じ中学の謹慎処分中のやばいヤンキー、松野千冬であると認識した瞬間にその思いは粉々に散っていく。
『……』
「……」
本屋で手と手が触れ合い、気まずくも何となく甘酸っぱいような空気が漂って、関係が芽生えるとか。現実的ではないとわかっていても、どこか憧れる展開。
でも、それって漫画に出てくるような清楚で可愛い女の子と誠実そうな男の子の組み合わせだから成り立つ話であって。
私達みたいな校則破りまくった問題児同士じゃ、需要がないんだよな。あと、トキメキと謙虚さも。
互いに、ぎゅっと本を掴む手に力が入る。ついでに相手にぶつける視線にも。頭の中で、コングが鳴り響く。
『……手、離してほしいんだけど』
「は?そっちが離せば」
『年功序列』
「それ自虐?」
『レディーファースト』
「ここ日本だろ」
きっとお互い相手が違えばこんな対応なんてしていない。別に嫌い合ってるわけでもないし、敵対してるわけでもない。ただ、何となく友達の友達?で、少しお互い気に食わないだけ。…多分。
『……譲って、ほしいな?』
だから、少し卑怯な手を使っても罪悪感なんて無くて。本を掴んでない方の指で松野千冬の頬をつつく。彼の意識が手元の漫画から逸れた一瞬を見逃さず、素早く懐に新刊を抱え込んだ。年頃の男の子は、扱いやすくて助かる。…まぁ、普段はこういう所謂“女の武器”なんて使いたくないんだけど。
『…顔赤くなりすぎ』
「っ、ずりぃぞ」
『持ってるものは最大限使うべきだと思って。……あ、場地』
「えっ!」
『嘘だよ』
…しかし、あまりにもチョロすぎて少し心配になる。この子、ほんとにヤンキーなのかな??
純粋さは時に武器になるけれど、完全にこれは欠点だ。まぁ、私には関係ないけどね。
恨めしそうにじっと視線を向ける松野千冬を横目に、私は颯爽とレジへと向かった。その足取りは、とても軽い。
しっかし、私ってこんなに性格悪かったんだな、なんて。
『まぁ人は選んでるから許されるよね』
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玲 - おもろい✨続き楽しみにしてるます! (3月29日 19時) (レス) @page16 id: ed098355db (このIDを非表示/違反報告)
きなこもち(プロフ) - あさん» コメントありがとうございます、励みになります!ぼちぼちの更新になりますが頑張りますのでよろしくお願いしますm(_ _)m (2023年3月16日 21時) (レス) @page15 id: 869b2e483e (このIDを非表示/違反報告)
あ(プロフ) - 面白いです!更新頑張ってください😆 (2023年3月16日 8時) (レス) id: ca28bfbf34 (このIDを非表示/違反報告)
きなこもち(プロフ) - 甲賀忍者さん» 甲賀忍者さん、嬉しいお言葉ありがとうございます!更新スローペースですが気長にお待ちいただけたら嬉しいですm(__)m (2022年8月29日 1時) (レス) id: 869b2e483e (このIDを非表示/違反報告)
甲賀忍者(プロフ) - 面白いです!留年コンビいいですね!応援させて下さい! (2022年8月27日 14時) (レス) @page8 id: 75f75dc2eb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きなこもち | 作成日時:2022年7月14日 16時