episode53 ページ6
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遊郭で上弦の淕を倒してから三週間が経った。
未だ意識を取り戻さない嘴平くんと炭治郎は些か心配だけれど、彼らが身を置いているのは蝶屋敷。胡蝶さんがいるならきっと二人は大丈夫だ。そのうち何事もなかったかのように目を覚まして、どんちゃん騒ぎを始めるだろう。
それに───
「考え事とは、随分余裕があるようだな」
『……っ!』
「遅い。重心はもっと前にして低く屈め」
今は他人のことを気にかけている暇なんて、ない。
「踏み込みが甘い、それでは相手の懐に届かない」
「その程度の勢いで鬼の頸が切れると思っているのか」
「軸がブレている、体幹が弱い証拠だ」
だんだんと義足の生活にも慣れ、少しずつ元の生活もできるようになってきて。
早く現場復帰したい。隊士としてまた戦えるように、少し離れてしまったその背中に、また近づけるようになりたい。
そのためには、とにかく鍛錬だと刀を握り直したのは水柱邸に戻ってきた翌日のこと。
最初は私が鍛錬を再開させた事に義勇はいい顔をしなかった。
「もう戦うな」とは辛うじて言われなかったけれど、内心は前線から身を引いてほしいと思っているのが表情から滲み出ていた。
でも、私が決して刀を手放さないのを見て義勇も諦めがついたらしい。「Aの訓練に俺も付き合う」と言って、今では屋敷で過ごす殆どの時間を私との手合わせに使ってくれている。
申し訳ない気持ちと、以前より義勇の振るう竹刀が容赦なくて、正直「あわよくば心を折ってしまおうか」と思われている気がしなくもない。
でも、何だかんだ私の気持ちを尊重してくれている辺り、やはり義勇は優しい。今の私のことなんて、その気になれば再起不能にだって出来るはずなのだから。
『……私、義勇から一本取れたら復帰しようと思う』
「そうか…」
そう宣言すれば、義勇は少し難しい顔をして、けれどやっぱり否定することはなくて小さくその首を縦に振る。
こんなことを言ってしまえば、きっとこれまで以上に義勇の刀は容赦がなくなるだろう。
でも、そうでなければ意味がない。
ちゃんと、今の私が義勇に勝って、義勇に“強くなった”って認めてもらわないと、意味がないから。
もう二度と、義勇に不安な思いなんてさせない。
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ミミ - 頑張って更新してくださいー! (2022年6月16日 3時) (レス) id: 67844f146c (このIDを非表示/違反報告)
きなこもち(プロフ) - ミミさん» ミミさんコメントありがとうございます。羽織のこと覚えてて頂けたの嬉しいです、、。引っ張ってる割にそんな大層なお話じゃないかもしれないんですけどちゃんと書きたいところなので気長に待って頂けたら幸いですm(_ _)m (2022年5月2日 23時) (レス) id: 869b2e483e (このIDを非表示/違反報告)
ミミ - 続きが気になります!更新頑張ってください♪ 夢主にとって羽織が大切な理由がいつか出るの楽しみでワクワクしてます! (2022年5月1日 23時) (レス) @page3 id: d6a0546df1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きなこもち | 作成日時:2022年4月24日 11時