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episode51 ページ4





「では、私は回診があるので失礼しますね」

『ちょっ…』

言いたい事だけを言って、清々しい笑みを浮かべた胡蝶さんに抗議の声を上げるが勿論聞き入れてもらえるはずもなく。このタイミングでいなくならないでください、という切なる願いは叶えられる事なく散った。


「……」

『……』

重い空気の中とり残された私と義勇は互いに無言で、
時計の秒針がやけに大きく響く。
この雰囲気は気まずい以外のなにものでもない。


『……あの「様子を見に来たのだが、追い返される前に帰る」』


何とか取り繕うとした矢先に被せられた言葉は想像以上に落ち込んだ声で、寂しそうな顔で。

『……待って、義勇』

そんな顔をさせたいわけでは、ないのだ。
ただ、貴方の負担になりたくはないだけ。
…といっても、“負担になりたくない”だなんて今となっては随分烏滸がましい言い分なわけだが。


それでも、どうにか誤解を解きたくて、真意を伝えたくて。拙いながらの言葉がきちんと届くかはわからないけれど、義勇に悲しい、寂しい顔はしてほしくなどないから。

『そこに座って』、と先ほどまで胡蝶さんが腰掛けていた椅子を指差せば義勇は大人しく部屋に入ってきて、言われた通りに腰を下ろす。
ただ、気持ちを話すだけなのに何故だか脈拍が上がってきて、またらしくもなく緊張しているのだと自覚せざるを得なかった。



『……私に構う前に、もっとやるべきことが沢山あるでしょうって、いつも思ってたの。義勇は…任されてることが多くて、警備地区も膨大で、義勇が居てくれるだけで安心する人は私だけじゃないはずだから』

柱とは、多忙である。
警備担当地区が広大な上に、鬼の情報収集や自身の更なる剣技向上の為の訓練、その他諸々。
妹弟子であるとはいえ、一隊士の見舞いに毎日来る時間や稽古に付き合う時間など本来ないはずなのだ。


『もっと自分を大事にしてほしい』


義勇は、優しすぎるから。
自分のことを後回しにしてしまうから。


『…でも、来てくれたのが嬉しいっていうのも本音』

だから、ありがとう、と言えば義勇はしばらくじっと私の顔を見つめた後、そっと私の頭に手を置いて右往左往させた。
いつも通り、それは安心感を与えてくれる動作ではあったけれど、いつも以上に動きがぎこちなくて。


思わず頬を緩ませれば、義勇はむすっと不貞腐れた顔をしていて。それが何だか愛おしかった。

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ミミ - 頑張って更新してくださいー! (2022年6月16日 3時) (レス) id: 67844f146c (このIDを非表示/違反報告)
きなこもち(プロフ) - ミミさん» ミミさんコメントありがとうございます。羽織のこと覚えてて頂けたの嬉しいです、、。引っ張ってる割にそんな大層なお話じゃないかもしれないんですけどちゃんと書きたいところなので気長に待って頂けたら幸いですm(_ _)m (2022年5月2日 23時) (レス) id: 869b2e483e (このIDを非表示/違反報告)
ミミ - 続きが気になります!更新頑張ってください♪ 夢主にとって羽織が大切な理由がいつか出るの楽しみでワクワクしてます! (2022年5月1日 23時) (レス) @page3 id: d6a0546df1 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きなこもち | 作成日時:2022年4月24日 11時

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