episode55 ページ9
・
『けほっ、けほっ……。龍之介、大丈夫?』
鏡花が白鯨に無人機を激突させたおかげでヨコハマが焼け野原になることは免れたが、仲良く私達は海に着水。
全身ずぶ濡れで中々酷い有様だ。
先に岸に上がり、海中の龍之介に手を差し伸べるもそれは華麗に無視されて。
そっけない態度に傷心しつつ濡れた衣服を絞っていれば、聞こえてくるのは嘆きの声。
「如何して彼女が……如何して…」
「鏡花…愚か者め、光に生きる希望さえ抱かなければ無駄に散らずに済んだものを」
人虎くんだけでなく龍之介までそんなことを云い出すのは少し予想外で、『いつまでメソメソしているの』という言葉は寸のところで飲み込んだ。
龍之介の発言で、人虎くんはまた自己嫌悪に足を踏み入れそうな雰囲気だったし。
『……』
二人してお通夜モードに入られてしまっては流石に私もどうしていいのかわからない。
こういう時の声の掛け方など私は知らないし、そもそも二人は大きな勘違いをしている。
はて、どうするべきかと悩んでいれば「これで善かったのだよ、敦くん」と第三者の声が響きわたる。
『……げ』
その声の主が視界に入ってしまって、思わず女子らしからぬ下品な声が出てしまったが、不可抗力なので許してほしい。
「太宰さん…」
何処か縋るように其の人の名前を呼ぶ人虎くんだが、太宰さんは淡々と「鏡花ちゃんは自分に克ち街を救った。探偵社に相応しい高潔さでね」と述べる。
「彼女は望みを叶えたんだ」
「でも…でも!彼女が死ななくちゃならない理由なんて何処にも…!」
『…そろそろ、本当のこと教えてあげてもいいんじゃないですか?“そうしなければならない理由があった”んだって』
尚も悲観の声をあげる人虎くん。これ以上喚かれても迷惑なので思わず横槍を入れれば、人虎くんは驚きと混乱で目を丸くする。
「…どういう、ことですか?」
説明を求める言葉を口にしながら何故か私に視線を向ける人虎くんは、本当に困惑しているようで。
けれど私もこれ以上ご丁寧に説明してあげる義理もない。無言を貫き通せば太宰さんが少し困ったように苦笑いをしつつ口を開くので、人虎君が状況を正しく理解して、街の為に命を懸けた彼女と感動の再会を果たせば此方は万事解決だ。
あとは──
『……帰ろう龍之介』
ほら、と外套の裾を引っ張ってもこの場を離れようとしない龍之介は、ただずっと太宰さんを見つめていて
此方は問題解決までもう少し時間がかかりそうだ。
1064人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
暁月臨(プロフ) - きなこもちさん» きなこもちさんのペースで頑張って下さい!! 気長に待ってます!!(*≧∀≦*) (6月21日 21時) (レス) id: 59dc159e7e (このIDを非表示/違反報告)
きなこもち(プロフ) - 暁月臨さん» 暁月臨さん嬉しいお言葉ありがとうございます、更新止まり気味ですがそう言ってもらえるととても励みになります!頑張りますm(_ _)m (6月21日 18時) (レス) id: 869b2e483e (このIDを非表示/違反報告)
暁月臨(プロフ) - この作品大好きです!更新よろしくお願いします!!頑張って下さい!!! (6月18日 23時) (レス) @page20 id: 59dc159e7e (このIDを非表示/違反報告)
ミミ(プロフ) - きなこもちさん» 了解しました! (2021年11月11日 12時) (レス) id: 3c71f1d526 (このIDを非表示/違反報告)
きなこもち(プロフ) - ミミさん» 私の端末が最近重くてボード開かないので、確認出来次第お返事します、すみませんm(_ _)m (2021年11月11日 0時) (レス) id: 8cb9599803 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:きなこもち | 作成日時:2021年9月23日 20時