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episode6 ページ8




そして二人はもう一度視線を交わしてからずいっと手を差し出してきた。小さな手に握られていたのは、一輪の花。


曰く、この山の山頂にしか咲かない珍しい花で、この近辺では“幸福の花”と呼ばれているらしい。

「…おねえちゃんにあげる」

有無を言わせぬ勢いに押されてその花を受け取ると姉弟は満足そうに頷き、二人手を繋いで山小屋の方へと向かっていった。



慎重に、ゆっくりと。言いつけ通りぬかるんだ足場を気にしながら、それでもなんとか小屋へと辿り着いた二人の背中。




『……っ』

小屋の扉が閉じたのを確認してから立ち上がろうとしたところで、鈍い痛みに襲われる。
先程より足の痛みが増している。




それに、雨に打たれていたせいで呼吸を使っていても寒気を感じる。
これは少しばかり危ない状況かもしれない。
負傷した足を引きずりながら、山道を歩く。
あと少し、もうちょっと。









『あ……』





しまった、と思った時には時既に遅し。
山小屋まであと一歩というところで、身体は宙に浮いていた。









『……っ』


全身を駆け巡る痛みに、思わず顔を顰める。
足を滑らせ崖から落ちてしまったらしい。



負傷した足、足場の悪い山道、土砂降りの雨。何もかもが最悪すぎる。



起き上がろうにも身体中が痛くて力を入れられそうにない。それに、雨で体温が下がってきているのか段々と手足の感覚も鈍くなってきている気がする。


『はぁ……』



動くのは、諦めた。
落ちた崖はかなり高い。起き上がったところであの二人のところへ行くのは無理だ。
それに、見たところ近くに雨避けできる場所もありそうにない。



下手に動いてまた余計な怪我をするよりは、大人しく朝になるのを待って隠に助けてもらう方が賢明だろうと、そう思った。


幸いにも先程姉弟から貰った花は、隊服の中に差し込んでおいたお陰で無事である。









“「無事に帰ってこい」”

屋敷を出る前に掛けられた兄弟子の言葉が脳裏によぎり、ほんと少しだけ泣きたい気分になった。
勿論涙はこれっぽっちもでないけれど。




『…ごめんなさい』





届くわけがないと頭では理解しつつも、言葉にせずにはいられなかった。

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きなこもち(プロフ) - ひかるさん» 観閲ありがとうございます、とっても嬉しいです! (2022年5月8日 19時) (レス) @page50 id: 869b2e483e (このIDを非表示/違反報告)
ひかる(プロフ) - すごく面白いです! (2022年5月8日 15時) (レス) @page25 id: 97f5eb0e61 (このIDを非表示/違反報告)
きなこもち(プロフ) - いいさん» いいさん嬉しいお言葉ありがとうございますm(_ _)m。マイペース更新ですが頑張りますのでこれからも見ていただけたら嬉しいです! (2021年10月19日 15時) (レス) id: 8cb9599803 (このIDを非表示/違反報告)
いい - 一瞬で心鷲掴みにされました!応援してます!頑張ってください! (2021年10月17日 9時) (レス) @page47 id: ac051c4e24 (このIDを非表示/違反報告)
きなこもち(プロフ) - 凌雲さん» 嬉しいコメントありがとうございます!とても励みになりますm(_ _)m (2021年9月23日 10時) (レス) id: 8cb9599803 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きなこもち | 作成日時:2020年4月5日 17時

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