episode45 ページ47
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「よっ、派手に元気そうじゃねぇか」
目が覚めた翌日、宇髄さんは手土産片手に蝶屋敷へとやってきた。
『…宇髄さんも相変わらずお元気そうで何よりです』
「毒にやられてたってのに…お前ほんとに人間か?」
それはご自身へのお言葉ですか、と喉まで出かかった言葉を何とか押し込めて、ベッドサイドの椅子を勧めれば宇髄さんは大人しくそこへ座る。
そして居心地悪そうに視線を彷徨わせてガシガシと頭を掻いた後に「悪かったな」とぽつりと呟いた。
『…宇髄さんに謝られる筋合いはありませんが』
「……」
『元より鬼殺隊士とは明日をも知らぬ身、覚悟などとうの昔に出来ています』
遊郭へ行くと決めたのも私、相手が上弦だと分かっていながら戦うと決めたのも私。その結果のこれだ。
寧ろ上弦相手に命を落とさなかったのだからそれだけで十分だろう。
だというのに宇髄さんは浮かない表情のまま。
彼自身、片目と片腕を失っているのだから私なんかの心配より自分の心配をしてほしい。
特に片腕がないとなるとこれからの生活は随分不自由になるだろう。
色々思うことはあったけれど、どれも言葉にするのは野暮な気がして。
『…そんなに気になるなら、私が25になるまでに嫁ぎ先が決まらなかったら責任とって4人めの奥さんにしてくださいね』
結局、口から出たのはらしくもない軽口で。
ぽかん…と言葉を失う宇髄さんの反応を見て、『失敗したかもしれない』と思ったけれど、この人に負い目を感じられるのは嫌だった。
「……ありがとな」
暫く固まっていた宇髄さんだったが、私の意図を察してか小さく頷くと感謝の意を述べ、そしてあの大きな手で私の頭を撫でた。
それは今までの慣れた手つきではなく、どこかぎこちなさを感じる手だった。
「……で、冨岡は何て?」
『義勇…?』
突然出された兄弟子の名に首をかしげれば宇髄さんは言葉を詰まらせ、「冨岡と会ってねぇの?」と問うてきた。
「Aが目ぇ覚ましたって聞いたら瞬時に駆けつけてると思ってたわ」
『ああ…。義勇には、何も伝えてないですから』
身体の欠損、生死を彷徨うほどの重体。
これらが自分の身にいつ起きてもおかしくないと覚悟は出来ていても、実際その状況になって師や兄弟子と顔を合わせる心構えなどできていない。
特に義勇とは話すことが山ほどあるだろう。その前に一人でちゃんと考える時間がほしいのだ。
それを伝えると、宇髄さんの表情はたちまち硬く強張っていった。
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きなこもち(プロフ) - ひかるさん» 観閲ありがとうございます、とっても嬉しいです! (2022年5月8日 19時) (レス) @page50 id: 869b2e483e (このIDを非表示/違反報告)
ひかる(プロフ) - すごく面白いです! (2022年5月8日 15時) (レス) @page25 id: 97f5eb0e61 (このIDを非表示/違反報告)
きなこもち(プロフ) - いいさん» いいさん嬉しいお言葉ありがとうございますm(_ _)m。マイペース更新ですが頑張りますのでこれからも見ていただけたら嬉しいです! (2021年10月19日 15時) (レス) id: 8cb9599803 (このIDを非表示/違反報告)
いい - 一瞬で心鷲掴みにされました!応援してます!頑張ってください! (2021年10月17日 9時) (レス) @page47 id: ac051c4e24 (このIDを非表示/違反報告)
きなこもち(プロフ) - 凌雲さん» 嬉しいコメントありがとうございます!とても励みになりますm(_ _)m (2021年9月23日 10時) (レス) id: 8cb9599803 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きなこもち | 作成日時:2020年4月5日 17時