episode42 ページ44
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「仕方ない、懐かしの遣り方でいこう」
異能者じゃない、生命体でもない。
となれば私と太宰さんの異能は彼奴に効かない。
つまるところ、中也さんの能力に頼るしかない。
「作戦暗号“恥と蟇蛙”は?」
「はァ?ここは“櫺子の外に雨”か“造花の嘘”だろうが」
太宰さんの提案に中也さんが顔を顰めて他の案を出す。しかし、それを太宰さんはニヤリと笑って否定する。
「中也。私の作戦立案が間違っていた事は?」
ただただこの状況を楽しんでいるような、勝利を確信しているかのような、そんな目をしていた。
そんな無邪気な顔、まだこの人にも出来たのか。
中也さんは、そんな太宰さんをじっと無言で見やった後に、舌打ちをして「人遣いの荒い奴だぜ!」と彼の案を飲んだ。
“恥と蟇蛙”は、攻撃力の低い太宰さんを囮に使って、その背後から中也さんが一気に敵を叩く、敵が少人数の時に用いられる作戦。
…四年経っても、まだ二人とも作戦暗号を覚えていた
その事実が、憎まれ口を叩きあいながらも何だかんだで互いのことを何処かで認めているようで、互いに他とは違う存在だと認識しているようで、何だか嬉しかった。
一夜限りの“双黒”の復活。
私はきっと、この二人の側で一緒に戦っていたあの時が大好きだった。いつまでも、太宰さんの立てる隙のない完璧かつ無謀な作戦と、その無謀な作戦を唯一遂行できる中也さんを、一番近くで見ていたかった。
とうの昔に押さえ込んだはずの感情が、溢れてくる。
それを何とか押し留めて、私が物思いにふけている間にも敵を殲滅した二人に近づく。
『…お疲れ様でした』
そっと中也さんの手を握って、その身体の傷を癒す。
そうすると、中也さんは「悪ィな、助かる」と頭を撫でてくれた。……今は、この人が居てくれるだけでもう十分だ。それ以上は、望まない。
「えー、私の方が重症なんだけど」
『…太宰さんに異能なんて効かないじゃないですか。そうでなくても、絶対貴方には治癒能力は使いませんけど』
ぶすっと不貞腐れる太宰さんに憎まれ口を叩けば、彼はさらに不機嫌そうに顔を膨らませる。
『それに、貴方が重症なのは貧弱すぎるからでは?』
「違いねぇ。人を牧羊犬みてぇに顎で使いやがって」
「牧羊犬が居たら使うのだけど居ないから中也で代用するしかなくてね」
「手前…」
好きあらばすぐ口喧嘩を始める二人に、思わず笑みが溢れてしまう。
今日だけは、四年前を懐かしんでもきっと許される。
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きなこもち(プロフ) - わたあめさん» ブックマンJr.放置していてすみません。最近自分でも迷走しててどこに突っ走っているのかわからなくなり放置状態にしてました。真逆更新待って下さる方がいるとは思わず・・・。でも、とても嬉しいお言葉です!頑張って今月中に更新します!! (2017年8月17日 7時) (レス) id: d6a64bf75c (このIDを非表示/違反報告)
わたあめ - ごめんなさい!生意気言って,,, (2017年8月16日 21時) (レス) id: 8f5f7e0649 (このIDを非表示/違反報告)
わたあめ - ブックマンJrの少女も更新して欲しいです!! (2017年8月16日 21時) (レス) id: 8f5f7e0649 (このIDを非表示/違反報告)
きなこもち(プロフ) - 赤雲蒼雲さん» 赤雲さん、ありがとうございます!とっても励みになりました!!更新とってもノロノロですが、これからも面白いと思って頂けるよう頑張ります! (2017年4月22日 19時) (レス) id: d6a64bf75c (このIDを非表示/違反報告)
赤雲蒼雲 - 面白かったです!更新頑張ってください! (2017年4月17日 11時) (レス) id: 08e4520087 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きなこもち | 作成日時:2017年1月2日 21時