中原中也に忠誠を誓った少女【文スト】

episode27 ページ29

・



「あはは、面白かったぁ！ねぇ、他には？」

『…以前、エリス嬢に人形代わりになるよう所望された時、“こう見えて此奴、色々忙しいみたいなんで。宜しければ俺が相手しましょうか”って助け舟を出してくれた』

「へぇー、優しいんだね」

『うん。只、本人は前エリス嬢が気に入ってた重力操作で身体を浮かせる“空中遊び”をやるつもりだったみたいだけど、結果的にエリス嬢の人形になって髪をサイドで結ばれてた…』




Qのお仕事が始まるまでのわずかな時間
私達は楽しく会話に花を咲かせていた

話題は言わずもがな《最近の中也さんについて》


誤解がないようにお伝えしておくが、Qに最近の流行について聞かれた為に、私の中で今大流行中の“中原中也”という人物について語ることになったのだ。あくまで、先に話題を振ったのはQの方であり 断じて私が一方的に話しているわけではない


「…それにしても、如何してAさんはそんなに中原さんのことが好きなの？」

『如何してって。…考えたことないけど、多分理由なんてない。“中也さんだから”としか云えない』

それに、私が中也さんに向ける此の感情は“好き”だなんて単純で純粋なものじゃない
信頼、憧れ、敬愛、依存、執着

“愛情”とまとめてしまえば可愛らしく聞こえるが、残念ながらそんなに綺麗なものではないのだ。


「僕にはよくわかんないや」

理解することを諦めたようにQは大きくかぶりを振った。
きっと、この子は“愛情”という類の感情を受け取ってこなかったのだろう。そして、これからもきっと───



『彼の人は私の全てを知っても同情を一切しなかった。そして、軽蔑も。挫折した時も、変に優しいだけの言葉じゃなくて私が心の何処かで誰かに云って欲しいと願っていた言葉をかけてくれた。うまく云えないけど、私があの人に惹かれたのは、そういう所だと思う』


Qには“やっぱりわからない”と視線で訴えられたので、大人しく口を閉じる。
正直全く話し足りないが、元々たかが20分程度で彼について満足に話せるなど期待していない。それに、一応節度はある。相手が興味をなくしたら潮時だ。



『…さて、そろそろ時間ね。この列車内で探すのはこの二人。貴方が呪いをかけるのはこっちの人。間違えないでね』

「わかってるよ。ふふふ、久しぶりに楽しくなりそう」


人形を抱えて笑うQは本当に無邪気で。




さぁ、楽しい楽しいお仕事の時間の始まりだ

episode 28→←episode26

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す