愛とかいて呪と読め【夏油傑】 (ページ8)

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episode.7 ページ8

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「…待ちなさいよ」

彼女の頭は真っ白だった。
故に、口をついて出た言葉は挑発的なものだった。

友人を泣かせた男に、ふつふつと怒りが湧き上がっていた。彼女は震える手を誤魔化すように、ギュッと鞄の端を掴む。

頭ではまずいとわかっていても、友人を弄ばれて黙っている程、彼女も人間できているわけじゃない。

彼女に呼び止められた男達は、ピタリと歩みを止めた。

「…ナオに、謝ってよ」

声は震えていた。
チクチクと刺さる視線が恐ろしくて、前を向くことが出来なかった。

夏油は「私？」と部下2人に自分の顔を指さして不思議そうに首を傾けた。

その言葉に返事は返ってこず、さらに苛立った彼女は再び口を開いた。

「き、聞こえないの？アナタよ、タクミさん。」

「……は、？」

「…ナオに謝ってよ」

男2人に乱暴に吊るされていたタクちゃんことタクミはポカンと口を開けた。

何言ってんだこの女。
いまの俺の状況がわかってんのか？
持ってかれそうなんだよ、こっちは。

彼は痛む関節を和らげようと身動ぎして思った。
タクミだけではない、夏油も「そっち？」と驚いていた。口に咥えたタバコから灰が落ちた。

お門違いな事を言っているのは彼女自身もわかっていた。わかってはいたが、このままあの男と別れる事はナオのためにしたくなかった。

ナオの誕生日なのよ。

毎日幸せそうにアンタの話をしてたのよ。

彼女は女であるが故に、男を許せなかった。
友人が愛した男が、こんな結末を迎えるなんて。

「…何か言ってよ」と彼女が口を開きかけた時、タクミはボロボロの顔でため息をついた。

「…もう、どうでもいいよ」

「…は、」

「どうでもいいんだよ！そんな女」

タクミは雷のように声を荒らげた。

男の怒号に2人の少女は肩を跳ねさせるが、言葉の意味を分解した時、彼女の腹にマグマのような怒りが込み上げた。

この男。よりにもよってナオの前で。

彼女の恐怖が鬱憤に変わる。

「＿＿＿この、ッ」

気づいた時には、ナオにあげるはずだったブランド物の香水を、乱暴に彼に投げつけていた。

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