愛とかいて呪と読め【夏油傑】 (ページ19)

今日:5 hit、昨日:2 hit、合計:47,334 hit

episode.18 ページ19

・

「…じゃあ、ちょっと行ってきます」

「うん、私はここで待ってるよ」

少女は自分の日傘をさして持ってくれてる夏油に言って、オートロックの中に入った。

ナオにこっそり教えてもらった暗証番号を入力して、古びたエレベーターに乗る。
チン、と5階で降りると、すぐに見えてくるナオの部屋の鉄製のドア。

前に立つと、ケーキの箱の汚れを確認して、すーはーと大きく2回深呼吸をした。

大丈夫。大丈夫。
会えたらラッキー。
会えなくても、ナオはきっと元気にしてる。

よし、と覚悟を決めてピンポーンと硬いインターフォンを鳴らした。

『…はい、どちら様でしょうか』

「…あ、あの楠木です。ナオの友達の」

『ああ、Aちゃんね。今出ます』

覇気のない控えめな声が聞こえてきて、思わず彼女も控えめに声を小さくして言った。

暫くして、ガチャりと扉が開いた。
中から出てきたのは、ナオの母親だ。

元気なナオとは真逆の、大人しい女性は「いらっしゃい」と言ってエプロンの汚れを払った。

「こんにちは。あ、これ。皆で食べてください」

「あら、ケーキ？どうもありがとう」

「…あ、それで…その」

「……ナオに会いに来たのよね」

「…！はい」

少し目を輝かせた少女に、ナオの母親は悲しげに二の腕を触った。
あ、駄目なんだわ。と彼女は察した。

チラリとドアの隙間から見えた部屋の奥は、薄暗くてカーテンからの光だけがほんのり差し掛かっていた。

少し進んだらナオの部屋。
あと数メートルでナオに会えるのに。

だが、その数メートルが彼女にはひどく長く感じた。

しつこくしないうちに帰ろう。
少女は「また来ますね」とさりげなく帰宅を促すと、ナオの母親に呼び止められた。

「…これ、先日ナオに届いたの。拓海って人から。Aちゃん、何か知ってる？」

と、母親から渡されたのは、くすんでグチャグチャになった1枚の手紙だった。

▷▷