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episode.13 ページ14











「お待たせしました。りんごジュースとホットコーヒーでございます。」

「ありがとう」





タイミング良く飲み物を運んできた店員に、夏油はゆるやかに微笑んだ。
だが行儀よく座る少女は、それにお礼を言うことも忘れてしまう程、目の前の香水に釘付けになっていた。


どういうこと。
なんでこれをこの人が持ってるの。






「…あの、」

「ああ、誤解が無いように言っておくと。これはキミのじゃないんだ。」

「へ」

「キミが投げた香水は底が欠けていたから、私が買い直した。」






「安かったしね」と笑う夏油を少女はどういう事?という顔で見る。さりげなく財力マウントを取られていた。

このブランド物の香水はナオにあげるプレゼントだったもので、値段も学生にとってはそこそこした。



それを買い直した?
ダメだ。意図が全く読み取れない。



彼女は夏油と香水を交互に見ながら、頭にハテナを浮かべた。いや、面白い。と夏油はきょろきょろとする少女を可愛らしく思って、たくさん話し始めた。







「それ、大事なものなんだろう?貰ってくれると嬉しいな」

「…は、」

「他に何か欲しいものがあったらプレゼントするよ。ヴィ〇ンでもシャ〇ルでも遠慮なく言ってくれて構わないよ」

「ヴィ…」







彼はペラペラと片手にコーヒーを飲みながら優雅に言った。機嫌が良かったのだ。
あの時のハイエナのようだった少女が、今や自分の一言一句に目を白黒するのが愛おしくも感じていた。


彼女は困ったように眉毛を下げる。


少女の家は決して豪華ではなかった。
むしろ平凡中の平凡。

だが、決して不自由をしている訳でもなく、贅沢をしたいと思っている訳じゃない。


いきなり欲しいものを聞かれてもすぐには出てこないし、夏油とはこの前知り合ったばかりだ。


ぐるぐると何分か迷った末、少女は意を決したように言葉を吐いた。








「…私何もいりません。この香水もお返しします。」








彼女の手は震えていた。
正直、彼の顔を見るのすら怖かったが、少女は目をそらさなかった。








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もみの樹(プロフ) - ピさん» ありがとうございます!嬉しいです! (2021年7月30日 19時) (レス) id: e680850d36 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - さ、さいこうです、、 (2021年7月30日 14時) (レス) id: 324728c5bd (このIDを非表示/違反報告)
もみの樹(プロフ) - わらび餅の声さん» ありがとうございます!頑張ります! (2021年7月19日 1時) (レス) id: e680850d36 (このIDを非表示/違反報告)
わらび餅の声 - めちゃめちゃ好きです!応援してます!最後までついていきますッ! (2021年7月19日 0時) (レス) id: 720510a825 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もみの樹 | 作成日時:2021年7月18日 18時

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