愛とかいて呪と読め【夏油傑】 (ページ11)

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episode.10 ページ11

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「ナオ、今日も休みですか…」

あの事件から数日が経った。

彼女の額の傷は塞がっただけで、完治には程遠い。
ガーゼを貼った痛々しい姿で、少女はいつも通り学校に行っていた。

しかし、あれからナオは学校を休むようになった。
ナオの家に行っても母親が出るだけで、メッセージの既読もつかない。

実はひっそり来ているのかも、と淡い期待を抱くも、担任の教師に門前払いされる始末。

「失礼しました」と言って職員室を出ると、やり場のない疲労感に、ぼんやり窓の外を眺めた。

…腹が立つ。
全部あの男のせいだ。
許せないわ。

少女はツキリと痛む額を感じながら、腹の中のドス黒い苛立ちを隠した。

上履きからローファーに履き替えていると、背後から特有のちゃけた声が呼び止められた。

「楠木、いま帰り？」

「うん」

「そ、じゃね！」

出席番号の近いクラスメイトだ。
２,３人の友人を連れて、彼女達はきゃぴきゃぴと去っていった。

ここは穢れのない神聖な女子校。

つい先日まで、彼女とナオもあんな風に放課後の寄り道場所を探しながら通っていたはずなのに。

怪我を負って登校してきた時の、クラスメイトの顔といったら。

それほど少女達にとっては、暴力とは程遠い存在なのだ。

きっと彼女も徐々に全てを忘れた方が、今後幸せなのかもしれない。

が、彼女にその選択は無かった。
少女はナオを傷つけたあの男を、生涯許さないであろう。

武勇伝になんてできない。
きっと笑えないから。

そんなことを考えながら硬いアスファルトの上を歩いていると、校門の方が騒がしい事に気づいた。

彼女は静かに眉を寄せる。
帰るにはあそこを通るしかない。

額のガーゼを最大限に前髪で隠して、人混みを通り過ぎようとした時、

「ああ、いたいた。探したよ」

壁にもたれかかった夏油が、腕を上げて笑って言った。

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