鬼が出るか蛇が出るか (ページ10)

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10.煙草とホワイトムスクページ10

さっきの言葉に

私はなんて返して欲しかったのか。

きっと優しい大野さんなら分かってくれるはずだって。

同じように期待をしてくれるはずだって。

そんなことを、無意識に考えていたのか。

自分の心がしゅわしゅわと溶けていくのが分かった。

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智「“翔くんは自分で命を絶った。”」

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智「俺、あの日、電話でそう言ったよね？」

じゅ…って。灰皿で煙草の火を消す音。

ジリジリと身体が熱くなる。

…あの日。

大野さんの言葉を電話越しに聞いて座り込んだお店のタイルの冷たさを。

私は今でも覚えている。

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智「Aちゃん。本当は俺のこと疑ってるでしょ？」

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カラン。と、氷だけが残った音。

いつの間にか聞こえなくなった騒がしい周りの声。

そんなことないですよ、と

口に出した声がかすれてうまく言葉にならなかった。

まあいいんだけどね。って大野さんが、再びジョッキを手にする。

なんとか空気を変えたかった私はタッチパネルを動かしてメニューを見る。

震えているのをバレないよう、指先に力を込める。

智「ねえ」

声が、聞こえる。

あ…わたし、この人こわい。

智「相葉クン…だっけ？カフェの。」

…煙草とホワイトムスクの香りが

鼻に、刺さる。

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智「Aちゃん。既婚者とホテル行くのは不倫って言うんだよ？」

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智「俺が気付いてないとでも思った？」

にこ…って、悪魔が微笑む。

二宮さんとおんなじ。薄い、薄い笑顔。

世界は歪む。

音は消える。

指先が…痛い。

大野さんがこんな笑い方するはずない…なんて思えるほど。私は目の前の彼を知らない。