06.新しい部屋 ページ6
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ガチャ、と部屋の鍵を閉める。
今にも翔の声が聞こえてきそうな。1人で住むにはあまりにも広すぎたこの部屋と
私は今日、お別れをする。
部屋の隅では何故と問うことしかできなかったあの頃の私が今でも身体を震わせながら泣いている。
思い出。と呼ぶにはまだ早すぎる翔との日々が、ここにはたくさん詰まっていた。
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智「じゃあ、行こっか」
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華奢な身体なのにひょいと重い荷物を持ち上げる大野さん。
引っ越しするなら手伝うよ、と微笑んでくれた彼はやっぱり優しい人だ。
はい、と答えながら
鍵をぎゅっと握りしめる。
「こっちはAの鍵ね」って渡してくれた翔の声色が、ああ…まだ脳裏にこびりついて離れてくれない。
「私…。ちゃんと翔の願いどおり前向けてるかなあ」
翔が選んだベージュのカーテンが記憶の中でゆらゆら揺れる。
「おかえり」と優しく微笑む翔はもうこの世にいない。
智「…うん。あの翔ちゃんのことだよ。きっとAちゃんのことずっと見守ってくれてる」
ね？って大野さんが私を見て笑う。
見上げた空は青い。もうすぐ、夏が来る。
これからはちゃんと、前だけを見るんだ…。
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駅から徒歩10分。閑静な住宅街。築三年のマンション。
あれから幾つか物件を見て回った私は
小さめだけれど日当たりが良くて綺麗なこの部屋に住むことを決めた。
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智「いいとこだね」
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私の部屋を見て、ふんわり。微笑む。
窓から差し込む光が優しい。
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「うん…本当に。ここに決めてよかったです。」
最初はあまり気が向かなかった部屋探しだったけれど
この部屋に出会えたことだけは良かったと思う。
さっき届いたばかりの段ボールから荷物を広げていく。
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大野さんが、ちらりと時計を見た。
智「あ…じゃあ俺そろそろ帰るね。片付けまだ途中なのにごめんね？」
「いいえ…！本当に助かりました…ありがとうございます」
またねー、と笑う大野さんを見送ろうと玄関のドアを開けた瞬間
外を見た大野さんが、あ。と声を上げた。
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智「にの…？」
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白い肌。薄い唇。風に吹かれて揺れたサラサラな黒髪。
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和「………大野さんだ」
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向かいで驚く彼の姿に気づき
にこ、と。微笑む。薄い、薄い笑顔。
その笑顔に。ああ…まるで悪魔みたいだな。なんて思う。
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作者名：星雪 x他1人 | 作成日時：2020年5月8日 1時
